おもいをつげる 「主?」
いつも飄々とした彼からの口から出たとは思えないような声色。
「……怖いの」
「なにを怖がる?」
帰還した刀剣たちの傷を、血を見るのが怖い、と最初審神者になってから思ったことだった。しかし、それは今も変わることなどなく、むしろ悪化しているのが事実。
「貴方たちの傷を、見たくない」
「ふむ」
「貴方たちの負った痛みを私だってわかってあげたい」
「それは、できんなぁ」
「どうして?」
「主に傷など負わせたら守り刀の名が廃るであろう?」
にこやかに、私の考えは無意味だと否定された。
「それに」
「?」
「傷もつかない程に強く、究極まで突き詰めれば心配など無用さ」
「でも」
そこに達するまでに数え切れないくらいの傷を負うでしょう?そう、伝えようとした口を指で制止される。
「案ずるでない。俺が守ってみせよう。伊達に天下五剣を名乗っておらん」
「だめ」
「はて?」
「三日月さんが傷つくのはもっと嫌。貴方には穏やかに微笑んでいて欲しいの」
きょとん、とした顔のちの笑った顔。
「はっはっは」
「なんで笑うの?」
「そうだなぁ、主よ」
「なあに?」
今宵は月が綺麗だなぁ、と。
「?……そう、だね?」
「おや、わからぬか」
「え?」
わからぬのならよい。と袖で口を隠して再び「はっはっは」と笑った。
「それは本当なの?薬研」
「ああ、本当さ」
月が綺麗ですね、というのは暗喩であり「貴方が好きです」と言う意味だと教えられた。
「(私だって好き……!)」
想いを再び告げるのはまた、後のお話。