「あれ……小狐丸、今日畑当番でした?」
「ぬしさまですか、いいえ、違いますよ」
「じゃあ、なにをしているの?」
本丸の一角にある畑の前で、ちょこんと大きな体を曲げて座っているのは小狐丸。毛艶のいい尻尾がふわりふわりと揺れている。
「ここに大豆が植えられております」
「うん、そうだね」
「こうして毎日育つのを見るのが好きなのです」
「ふうん?」
にこやかに笑うと、再びぱたぱたと尻尾を揺らしながら同じところを見つめている。私も一緒に、と思って腰を下ろしかけたとき。
「大将!どこにいるんだー?」
と、厚くんに呼ばれ、私は後ろ髪を引かれながらそこを去った。
次の日、また彼、小狐丸は昨日と同じ場所で同じように観察をしていた。
「また観察?」
「ぬしさま」
「飽きないの?」
「飽きる、という感覚がわかりませぬ」
「……すごいね」
ぬしさまも、一緒に観察しませぬか?とキラキラした瞳でこちらを指してくるので、断れるはずもなく私は彼と一緒にまだ芽も出ていないただの土を「がんばって育ってね」と祈りながら見つめていた。
次の日も、次の日も、彼は同じ場所にいる。しかしやるべきことはきちんとこなしているのだからスゴイとも思う。そして、聞こえてくる耳障りのようなそれでいて心地よいような音の正体は、雨だ。
「……あれ?」
ふ、と小狐丸の姿が頭に浮かんだ。……いやいや、まさか。彼も馬鹿じゃない。雨の日なんだから、大豆をずっと見てる、なんてそんな。
「いない、よね?」
*
「……こ、ぎつね、まる?」
「おや、ぬしさま」
「な、何してるの……!?」
「?大豆の観察でございますが」
「傘も差さないで何してるのよっ……!!!」
つい、語気が荒くなって口を押える。……毛艶のよかった尻尾もびしょびしょになっていて。
「……おいで、小狐丸」
「ぬしさま?」
ぐっと彼の手を引っ張って、湯屋へと連れていく。元々皆が入っていく時間であったため、すぐに湯へとかわって、私はシャンプーをしゃこしゃこと手にとって髪の毛から尻尾からと念入りに洗った。
「……よし、バッチリ」
「良い香りがします」
「もちろんでしょ!私とお揃いだからね」
「ぬしさま、なまえ、と……」
ほんのりと頬を赤らませて嬉しそうにする小狐丸が可愛くて、照れ隠しをするように「大豆の観察はまた明日からね!」と半ば強引にぶつけ、私は自室へと戻った。
「(……早く芽が出るといいな)」
真新しい小さなが芽が出たのは、その次の日のことであった。
書けば(描けば)出るって聞きました……。
早く小狐丸おいで?おいでよ?
おじいちゃんおるよ?鳴狐もおるよ?
というか尻尾ってどこにあるんですか(真顔)