ことのは 「…………」
「ほほう、なるほどなるほど?」
「…………」
「ふむ、本日の気分はそれに致しまするか」
「…………」
「仰せつかりまする。それでは勝手場へ」
ちょこんと縁側に座りグローブをつけた手を狐の形に変え、お付きの狐ちゃんに向かってピョコピョコと動かしている鳴狐を見つけた。
「鳴狐?」
「おや、主殿ではございませぬか」
「……今は、なにをしていたの?」
「?……なにとは、何を指してございまするか?」
「鳴狐が手話みたいなの、してたでしょう?」
「ああ!」
それはですね、鳴狐がわたくしめに指示をしていたんですよ、と甲高い声で胸を張る。
「……え、っと?」
鳴狐は一言も喋っていないのにこの狐ちゃんはわかるのだろうか。あの手話とはいいがたい手話で。
「通じるの?」
「馬鹿にしておられますか主殿!?通じるもなにも、鳴狐とわたくしは一心同体ですぞ?」
「うん、それはわかるけど……」
私も、わかるようになりたい、とそう思ったのだ。
「……主殿」
「っえ、?」
先程とは違う、低く静かな声が私の耳に届く。目をやれば狐ちゃんの口を塞いでいるようだ。
「ど、どうしたの……?」
「主殿にこれは必要ない」
これ、と指したものはきっと狐の形をした手のことだろう。必要がないということは私とは喋る必要がないということなのか、と勝手な解釈で泣きそうになる。
「……主殿には、ちゃんと自分の言葉で」
しゃべるから、と言って静かに微笑んだ。そしてぱっと狐ちゃんの口を塞いでいた手を離し、ゆっくりと立ち上がる。
「……またね、主殿」
「それでは、またでございます」
すっと私の横を通り過ぎた鳴狐は、もう喋るんではなく手話に変わっていて。……なんだか、私だけに喋ってくれているような特別な「言葉」が単純に、嬉しいと思った今日この頃だった。