愛おしい気持ち 「…………」
「…………」
心地の良い、沈黙。
時折、彼の肩に乗るお付きの狐がもぞもぞと動く音が聞こえる。それ以外は自分の心音が聞こえるくらいに静かだった。
「(……ああ、どうしてこんな)」
「……主殿」
「っ?……は、い?」
じ、とこちらを見つめてくる黄金色の瞳。目元に赤いラインが特徴的であり、汗をかくと崩れてしまうことに困っていることも、最近知った。
「あるじ、どの」
「……?」
ゆっくりと、慈しむような声音で言葉を紡ぐ。ぱちぱち、と数回瞬きをしたあとに私の目を見てうっすらと笑顔を浮かべた。
「っ……」
愛おしい、と心が叫んだ。ような気がした。
「……主殿、あるじ、どの、」
「鳴狐」
「……はい」
そっと立ち上がって、きゅ、と鳴狐を抱きしめる。「なきぎつね、」と言葉を漏らせば、鳴狐もおそるおそる、抱き締め返してくれた。
「……こんな主で、ごめんね」
「……?」
「でも、こんな私だけど、きてくれて本当に嬉しい」
力を存分に発揮させてるとはとても言い難いけれど、なにせ私の初めての刀剣だったのだ、情が移らないわけがない。
「主殿!そんなこt……「そんなことはない」」
「……ふふっ」
「主殿は主殿だ」
「うん……」
誰が何を言おうと、主はなまえだ、と。
他の誰かにとっては些細な、些末な言葉かもしれない。でも、私にとってそれはとても意味のあることも変わりはなくて。
「……これからも、よろしくね」
そう告げれば、当たり前だと言うように首を縦に振る。そして、始まりを告げる心地の良い、沈黙に私は胸を高鳴らせた。