※学パロ


けたたましい目覚ましのベルが、浅い眠りについていたクロウを騒がしく起こした。
隣室の同居人等にもこのベルが聞こえているだろうが、どちらも起きる気配はない。

同居人の一人は、果たして人間というものに繊細な神経があるのだろうか、と疑いたくもなるほどの図太い神経の持ち主。もう片方は、機械弄りが好きで没頭してしまうのが毎日だから朝方眠りに就くのが常々である。

クロウが目覚ましの音で彼らが起きてしまうのではないか、と気にしていたのは少し音の大きい目覚まし時計を購入して最初の三日程。今は気にするどころかこの音で起きて欲しいと思うくらいに、二人の寝起きは最悪なのだ。

身を起こすと寝不足に目眩がする。それを頭を振り無理矢理飛ばして立ち上がった。
クロウはまず、鏡に向かい髪に櫛を入れるべく櫛を手に取った。普段バンダナで上げている髪も、寝起きとなるとさすがに力無く落ちている。動く度揺れる髪がクロウにとってはひどく煩わしい。
バンダナを手に取り、手慣れたように髪を上げてから洗面処へ向かった。

クロウの一日は主婦顔負けの忙しさだ。起床してすぐに同居人らと自らの、計3つの弁当を作らねばならない。昨夜就寝前にある程度仕込みを終えた食材を温め、炒め、弁当箱に詰めていく。
それと同時に、朝食の支度もしなければならない。

図太い神経を持つ同居人は口だけは達者なため、弁当の中身の残り物が朝の食卓に乗っていることをけして許さない。クロウにとっては面倒でしかないのだが、文句を言っても聞かない相手なのだから仕方ないと最近は割り切っている。

朝食の支度が終わったら、次は夕食の準備が待っていた。クロウが夕食に帰ることはほとんどない。僅か17歳にしてクロウがこの家計を支えていると言っても過言ではない。

機械弄りの得意な同居人が収入を得てくれてはいるが、ほとんどが臨時な為あてには出来ない。
他にも、毎月海外に留学している鬼柳という親友が、あちらで稼いだうちの幾らかを送ってくれてはいるが、クロウがそれを使うことは稀だ。
しかし、クロウも人間。この休みない忙しさに体調を崩し、働くことが不可能な時が稀にだがある。こういった時に渋々鬼柳からの金に手をつけるのだ。

こうしてクロウが世話しなく動いていれば、必然と時間は登校時間の一時間前となるわけで。

「遊星!!ジャック起こして飯食え!遅刻する!」

フライパンを片手にクロウが声を上げる。このクロウの声で目覚ましではけして目を覚ますことの無かった同居人の一人が目を覚まし、行動を開始するのだ。

階段を下りてくる騒がしい二人に、クロウは菜箸の持ち手で頭を掻いた。寝起きのはずなのに、些か騒がし過ぎやしないだろうか。

彼らの扉を開けてからの第一声に、嫌でもクロウの肩が落ちた。

「今日は珈琲じゃないのかクロウ!」
「自分でやれよ!」
「…いただきます」

食卓に着く前からの文句に、炒めていた野菜を皿に盛りながらクロウは怒鳴り返した。遊星は我関せずで颯爽と朝食を食している。
ジャックは紅茶で妥協したのか、ブツブツと言いながらも食事を開始した。クロウはそんな二人に溜め息を零し、エプロンを外す。フライパンは後で洗えばいいだろう。

静かに朝食を始めた二人に、ようやく夕食の準備を終えたクロウが席に着き一息付く。安物の紅茶を啜れば、肩の力が抜けるのがわかって思わず苦笑。まだ朝なのにも関わらず、クロウの体は酷い疲労を訴えていた。

「遊星、今日の夕食も頼む」
「おかずは?」
「豚肉と野菜の炒めもの。それとほうれん草の浸し。大根は一応切ってサランラップかけといたから味噌汁にでもしてくれ」
「わかった」
「ジャック!遊星のこと少しは手伝えよ!」

行儀が悪いがクロウは持っていた箸でジャックを指し声を荒げた。どうせ言っても聞かないのだろうが、一応教育だとクロウは思っている。

二人の食事が終わったのを見計らい、クロウは残っていた朝食を掻き込んだ。
時計を見るともう登校しなくてはならない時間まで、残り二十分弱を切っている。箸を机に叩き付け、口煩く二人を急かしながらクロウは三人分の食器を片付けるべく立ち上がった。

「ほら!遅刻すんぞ!はーやーく!!」
「クロウも、早く」
「心配すんな!ジャック連れて先行け!」

二人を急かし家を出さしてから時計を再度見る。そろそろでなければ遅刻してしまうが、クロウは長年溜めていた金を使いバイクを購入した。学校の近くまで、飛ばして世話になっている喫茶に停めさせてもらえば間に合うはずだ。

クロウは部屋の戸締まりを確認した後、机の上に残る三つの布に包まれた弁当箱に愕然とする。朝早く起きて作ってやってるにもかかわらず、毎回毎回忘れていくのはわざとなのだろうか。

「しかも遊星まで毎度毎度…!」

二人はクロウより一つ上の学年だ。しかも、ジャックも遊星もクラスが違う。朝のHRまでもう時間がないから、HRが終わってから一時間目までの間に届けてしまわなければ。
クロウは溜息を一つ零して額を押さえた。

何故だろう。まるで手の掛かる子供を二人、世話している気分に襲われるのは。何故だろう。それが、嫌でないのは。

口元に浮かぶ笑みに気付いて、一つ悪態を付いた。

「しゃーねえな、いってきまーす」

クロウは無人の部屋の中に声を響かせた。洗い忘れたフライパンの中に溜まった水が、蛇口から滴る水滴に波紋を作る。

今日もこうして、クロウの慌ただしい一日が幕を開けるのだ。



ひとりでも生きられるけど


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