何故こうなったのだろうか。 今わたしの目の前には片想いをしていた相手がいて、切なそうな表情でわたしを見ているのだ。 していた、と過去形なのはその時わたしも彼も中学生だったからである。 高校が別でそれ以来会っていないし、連絡もしようと思わなかった…、つまりわたしは彼を忘れていたのだ。 「…好きだ」 「……えっ」 不意打ちだ。 彼は真剣な目をしてわたしを見つめる。 大人びた彼は思い出とは異なり、わたしはドキドキと胸を踊らせてしまう。 しかしその言葉を聞くには、時間が経ちすぎていた。 「……もう、遅い」 「え?」 わたしは震える右手を見せる。 薬指には、指輪。 目の前の彼がはっと息を飲むのがわかった。 そう、わたしは、 「それ…、」 「…彼氏が居る、から」 まだ付き合い初めてそう長くは無いが、付き合っている人がいるのだ。 彼氏とお揃いであるリングがキラリと光る。 わたしは彼を直視することが出来ず、俯く。 ふと右手に体温が伝わり、ぎゅっと圧迫される。 そこに視線を動かすと、彼はわたしの右手を掴んでいたのだ。 「…俺とも買おうか」 「…えっ、」 「ペアリング、いつ買いに行く?」 「…あのっ、」 「俺のこと、嫌い?」 ああ、もう、そんな言い方は卑怯だと思う。 わたしの恋心が蘇るのは、容易であった。 「…好き」 一言言えば後はもう簡単である。 彼はわたしを強く抱きしめて、ありがとう、と呟いたのだ。 ああ、涙が。 「…あ、」 「好き、だ」 背中に軽い衝撃が伝わる。 目の前には白い天井と嬉しそうな、彼。 大人びた彼の顔が徐々に迫り、わたしは目を閉じる。 唇と唇が音も無く触れ合って。 「…これ外して、いい?」 「………うん」 薬指に嵌めてあった指輪が彼の手によって外され、そこにキスを落とされる。 その仕草に思わず胸が高鳴り、苦しくなった。 「初めてじゃなくて、ごめんね」 「気にすんな」 「…ありがと」 もう一度キスをして、わたしたちは繋がった。 甘い誘惑 100724 |