雨は止むことなく、しとしとと降り続いている。 こんな日に挑戦しようとする奴もいないらしく、たまにくる挑戦者の為に俺はジムに備え付けてある自室に篭っていた。 ふかふかとしたソファで眠りたい気もするが、雨がそれをも邪魔をする。 簡単に作ってあるそこは防音なんぞしていなく、雨が外壁を叩く音が遠慮なしに聞こえるのだ。 そんな中、パシャパシャと水を含んだ地面を歩く音が耳に届く。 こっちに向かってくるその音の持ち主はとうにわかっていて、俺は暖かいココアを作るために立ち上がる。 牛乳が暖まったと電子レンジが鳴ると同時にドアが控えめにノックされた。 「入れよ」 「…お邪魔、します」 か細い声で入って来たのは、やはり俺が想像していた人物に間違いなかった。 彼女はソファに腰掛け、俯く。 その仕草でここに来た理由もわかってしまう、まあ、こんな雨の中あいつがここに来る理由なんて一つしか無いが。 ほらよと声をかけて出来立てのココアが入ったコップを手渡すと、ありがとうと小さな声で礼が返ってくる。 俺はそいつの隣に座って、背もたれに腕を置く、カチカチと秒針が進む音と相変わらず雨の音が部屋に響く。 何か声をかけようと口を開いても音になることはなかった。 ……彼女、ナマエが落ち込んで俺の元に来るのは決まってレッドが関係していた。 二人は恋人同士であるが、レッドのあの性格と山に篭っているのが原因でナマエが辛い思いをしている。 彼女はそれでもいいと笑顔を俺に見せた。 しかしやっぱり辛いものは辛いんだろ、そっとナマエを見ると涙が頬を伝っている。 俺は思わず彼女の手を引く、飲み干したらしいココアは零れることは無かった。 「…何も、聞かないの…?」 「………」 「優しいよね、グリーンは」 …優しいふりして、本当は聞けないだけだ。 ナマエが話すのが辛いと言うなら辛く無くなるまで待つ、なんて言えたらいいんだけどな。 「…今日ね、記念日なんだ」 「…ああ」 「…けど、レッド、忘れてるみたいで…、」 「………」 「会いに行ったんだけど、怒られちゃった…」 俺は黙って聞くしかできない、何故ならどちらの気持ちも知っているから。 レッドは表に出さないだけでナマエをちゃんと想っている。 ナマエが会いに行った時怒ったのも、危険な道を一人で行ったからだろう。 一方ナマエは全てを真っ直ぐ受け止めてしまうらしく、レッドの態度や行動の裏の想いになかなか気づく事ができないのだ。 それでもたまに好きだと口にするレッドを信じて自分も想いつづけている…。 そこまで考えて俺が泣きたくなった。 掴んでいた手を離して、また背もたれに逆戻る。 俺ならナマエをこんなに悲しませねえのに。 俺なら俺の全てでナマエを愛すのに。 俺はいつまで経ってもレッドには勝てない。 横目でナマエの背中を見る。 小さくて震えているそれはとても愛おしくて。 あー…、 抱きしめてぇ。 雨音 101026 |