Green | ナノ



 


ちた。
どこに?落とし穴に。
昼食を食べた後、わたしは一人で散歩に出た。
今日も心地好い日だったから油断していた…というか今時落とし穴だなんて…落ちたけどさ。
この深すぎる穴に悪意さえ感じる。

「ここまで掘るのにどれくらいかかったわけ…」

呆れてため息しか出なかった。
わたしがさっきまで歩いていた地上は、頭上3メートルくらいにある。
背が高くないわたしからすればこれは結構な高さで、自力で脱出することは不可能に近い。
これでも頑張った方なのだ、爪の間に土が挟まるくらいには。
本当についていない、こんな日に限ってポケモンもポケギアも持っていない。
つまり、だ、…助けを呼べないと言うことになる。
駄目元で誰かいませんかー、助けてくださいー、なんて叫んでみるけれどやはり無意味に終わった。
ああ、今日はグリーンとバトルする予定だったのに…宣戦布告もしたのに…。
約束破る奴とか思われたら…いやだ、すごくいやだ。

「…嘘でしょ」

あれ、この台詞前にも言ったことがあるぞ。
頭の片隅でそう思いながらも呟くしかなかったのだ。
何故ならもう空が暗くなっていたからである。
誰か嘘だと言ってくれ、何でこんなに暗くなってるの…!?
…いや、わたしが調子ぶっこいて寝たからなんだけれども!!!
それにしても穴の中は本当に暗くて…怖くなる。
いつも自分がポケモン達に頼りっぱなしなのがよくわかった。
昼間でも人気が無かったここ周辺に夜人が来ることは無いだろう…ということは。

「助からない…?」

わたしがそう呟いたと同時にどこかでホーホーが鳴いた。
段々と少し肌寒くなってきて自分の身体を抱きしめる。
怖くて寂しくて視界がぐにゃりと歪みはじめる、鼻もツーンとしてきた。
助けて助けて助けて、わたしはただそう願うしか無かった。
もう何回目かの助けてという言葉を小さく口に出した時、上から物音が聞こえた。

「誰か…!」

滲み出る涙を拭って、淡い期待を抱きながら弱々しく声を張り上げる。
するとその物音が段々近付いてきて…、

「ナマエ…!?」
「…ぐ、ぐりーん……?」
「お前何やってんだ、こんな所で!探したんだぞ!」
「ご、ごめ…」
「とにかく助けてやるから動くなよ、ナッシー!」

言われた通り大人しく待っていると、ナッシーのつるがわたしの身体を持ち上げてくれた。
何時間ぶりに地上に足がついたけれど、わたしはすぐさまにその場に座り込む。
ナッシーにお礼を言うと、笑顔を見せてくれた後ボールに戻っていった。

「お前なあ…あ?」
「え?」
「…泣いてんのか」

グリーンの言葉に心臓が跳ねる、泣いていたことを知られるのが嫌ですぐ顔を逸らした…今更だけれど。
気のせいだと言うとそっと頭を撫でられた。
それは壊れ物を扱うかのように優しい手つきで、拭いたばかりの涙がまた溢れ出してくる。

「…う、」
「‥ったく、馬鹿だなナマエは…、」
「うる、さ……」
「よく頑張ったな」

グリーンの優しさにわたしの涙は次々と流れ出す。
わたしは何も頑張ったつもりなど無かったのだけれど、何故かそう言われると安心してしまったのだ。
我慢出来ずに声を上げて泣くわたしにグリーンは笑って抱きしめてくれた。

「もう大丈夫だから」
「うん…、」
「俺がいるからもう怖くないだろ」
「ありが、とう」

漸く落ち着いて、涙が止まる。
けれど、どうしてだろうか、まだ、離れたくない…。



君を知るほど


101022




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