※悲恋 サトシとカスミが喧嘩をした。 今日のそれはいつものことの様で、全く違う。 わたしの目の前には涙目のカスミ、そして少し戸惑いながらも怒りを表にするサトシがいる。 いつもと違うと言うのは二人の関係だった。 共に旅をする仲間ではなく、恋人同士だからである。 わたしは元からその場にいたケンジに呼ばれ、この場所に来たわけだが…どうしたものだ。 デパートの真ん中で喧嘩をしたらしく、二人の回りには野次馬が大量にいた。 それらの視線に堪えられ無くなったのか、カスミはその場から走って離れていく。 わたしが彼女の名前を呼んでも、立ち止まる所か振り向きもしてくれなかった。 野次馬が散らばり居なくなった頃、わたしとケンジは静かにサトシに近付く。 「何があったの」 「……」 「今回のはサトシが悪いよ」 ケンジから見てそう感じたのならそうなのだろう、彼の観察力は素晴らしいものなのだから。 ここで話し合っても仕方がない、わたしはそう言ってカスミを探すことを提案した。 広いけれど、三人が別々で探せば見つかるはずだ。 それに、女の子としては早く追いかけてきて欲しいものなのだから。 そうしてわたし達はそれぞれ探し始める、わたしは取りあえず化粧室を見て回り、いない事を確認すると店を探し始めた。 時間が流れる様に進む中カスミが見つかる様子は無かった、誰からも連絡が来ない。 「…なんでわたしが、こんなこと……」 切なくなる。 わたしはサトシが好きだったのだ、それなのに。 何度、彼らの仲の良さを見せ付けられたのだろう。 何度、彼らの相談を受けたのだろう。 何度、涙を流したのだろう…。 思わず視界が揺れる。 こぼれ落ちる前に服の袖で涙を拭き取る、弱いなあ。 「…!」 「好きだ…」 「……は、」 「好き、好きだ…ごめん……」 「…?サトシ?」 前から抱き着いて来たのはサトシで、譫言の様に好きと繰り返す。 混乱する頭でごめんと言う言葉を拾った時、わたしは違和感を感じる。 彼は勘違いをしている、そう思った。 愛しい人の温もりを感じ、このままで居たいという思いを抑えながらサトシの胸元を押す。 「サトシ何してんの!」 「…えっ」 「カスミは見付かったの!?」 「え、あ、いや…カスミかと思って……」 「は?」 「服が、似てたから…うわ、ごめん!」 サトシがあわあわと慌て出す。 わたしはそれに苦笑していいよ、と言った時、携帯が鳴る、ケンジからだ。 どうやらカスミが見付かったらしい、その場所を聞いてわたしは携帯を閉じた。 目の前のサトシにその旨を伝え、一人で行って来いと背中を叩いた。 彼はありがとうと笑顔を向けて走り出す、わたしはそれを見送った後、帰り道一人とぼとぼと帰った…。 抱き締められた時、サトシの想いを聞いた時、カスミへの想いをひしひしと感じた。 それが胸をえぐる様に痛くなったが、同時に甘い物が胸に広がって羨ましくもなった。 「…ただいま」 「おかえり……どうしたんだい?」 「…え、」 「悲しそうな顔をしている」 「……シゲルには隠し事は出来ないね」 「また…サトシ?」 「………ごめん」 「いいよ、それを知ってて僕は君と一緒に居るんだから」 かつてシゲルはわたしの相談相手だった。 しかしシゲルはわたしの事が好きで…つまりわたしは彼に同じ思いをさせていたのだ。 それなのに優し過ぎるとも言える彼は失恋したわたしを慰めてくれた…。 情けないわたしは彼の優しさに甘えて今の微妙な関係が続いているのである。 「…う、」 「いいよ、いっぱい泣けばいい…」 「う、わあああ」 ああ、彼を好きになれたらいいのに。 そう思っても、わたしの心を占めるのはたった一人…、サトシだけ……。 切なくなるのは、 101002 みたいな夢を見たんだ。 |