「ま、まっ、て!」 サトシと別れて階段を下り終わった時だ。 聞き慣れた声が耳に入って来て一瞬動きを止める、が、直ぐさまに俺の足は動き出す。 誰かなんてわかりきっている、俺があいつの声を聞き間違える訳がないのだから。 同時に何故呼び止められたのかもわかっていた、あいつは、優しいから。 会いたくなかった、というのが正直な気持ちだった。 しかし会いたかった、という気持ちも嘘ではなかった。 その二つを天秤にかけ、量るとどちらが重いなんて初めからわかっていたことで。 音もたてずに、静かに傾く俺の天秤。 『会いたくない』のだ。 それは俺のプライドが大きいせいなのだろう。 わかっているのに、今まで共に旅をしてきたあいつにまだ俺は心を許せていないらしい。 「待ってってば、シンジ!!!」 「……」 腕を掴まれ、漸く足を止める。 背後では息を切らしたナマエの辛そうな声が聞こえて、胸が少し痛くなった気がした。 俺は何も言わない、それどころか振り返ることもせずただその場に立っている。 掴まれた腕が少し、熱い。 「シンジ、」 少し落ち着いたのか、ナマエが口を開く。 やめてくれ、そう思った。 今ナマエに名前を呼ばれるのは何より辛いのだ。 俺はまだ何も言わない、いや、言えない。 振りほどくことも出来ずに、息を潜めてナマエが諦めるのを待つ。 「シンジ、バトルお疲れ様」 「……」 「負けちゃったね」 …そうだ、俺は、今までぬるいと罵ってきたあいつに負けたのだ。 勝つと誓ったのに、兄貴と、ポケモンと、…ナマエに。 しかし俺は負けた。 悔しいが良いバトルだったと思う。 それより、俺はナマエにどんな顔をして会えばいいのかわからず、彼女に何も言わず会場から出てきたのだ。 「けど、シンジ、今までで一番格好良かったよ!」 「…!」 俺も単純になったものだ、ナマエの一言で気持ちが180℃も変わったのだから。 「ねえ、シンジ、一人で行かないでよ」 「……」 「わたしシンジが勝ち続けてたからっていう理由で一緒に旅してたわけじゃないんだけど」 「……、」 「わたし、どんなシンジも好きだよ」 「…っ、」 何だ、何なんだこいつは。 俺がずっと言えなかったことを意図も簡単に口にした。 負けることは格好悪いと思っていた、情けないと思っていた。 だから俺はナマエに会いたくなかったのだ。 それなのにこいつは。 「ね、こっち向いて?」 「……お前は、恥と言うものを知らないのか」 「やっと、話して、くれた…」 「…悪かった。謝るから、泣くな」 振り返ると涙目のナマエがそこにいて、内心焦る。 どうすればいいのかわからなかったから、俺より少し背の低いこいつを抱きしめた。 こいつは何もかもが暖かい。 だから、戸惑ってしまう。 俺なんかが一緒に居ていいのかと、…触れていいのかと。 けれど誰よりも傍に居たくて、誰よりも抱きしめたくて、誰よりも好き、なのだ。 「今からキッサキに行く。……ついて来て、くれるか?」 「ずず、当たり前!」 俺がこんなことを言うなんて。 心を許しすぎているな。 まず防寒着を用意する為にトバリに戻るか。 …行くぞ。 (手を差し延べるとナマエは嬉しそうに自分のそれを重ねた) 100824 リーグお疲れ様! シンジすごく格好良かった!!! |