思い出せば、彼女との出逢いは彼女の人の良さと偶然に偶然が重なったものだった。 僕宛に頼まれた荷物をわざわざ洞窟の奥まで持ってきてくれた彼女。 お礼を言うとこのくらい、と微笑んだのを覚えている。 その笑顔に捕らわれたんだろうか。 それを切欠に僕は彼女を何度か手助けしたのだ。 ありがとうございます、毎回丁寧にお礼を言う彼女を見る度に僕は満たされた気持ちになった。 それと同時にどうしようかと悩み始めた。 僕がチャンピオンなのだと言うべきか。 ずるずる考えている内に彼女は僕の家に訪れ、更に親密になってしまった。 結局打ち明けることができず、僕はチャンピオン部屋で彼女を待っている。 僕を見たら何と言うのだろうか。 どんな顔をするのだろうか。 ガシャン、と機械音が聞こえた。 ああ、彼女が、来てしまった。 「…よくここまで来たね、ナマエちゃん」 「ダイゴさん…」 苦笑いを浮かべて彼女を見る。 僕の名前を呼んだ後、一歩一歩進み始めた。 (…あれ) ふと違和感に気付く。 それは何なのかはわからない。 ただ、何かが違う。 僕の知っているナマエちゃんはここにいない気がした。 表情が確認できる距離まで来た時、その違和感が何なのかをようやく理解する。 「ダイゴさんがチャンピオンだったんですね!」 いつもの様に明るい声が部屋に響いた。 僕は驚いて目を見開く。 想像では戸惑った君がいて、僕を責めていたのに…。 余りにも想像と違っていて言葉が出ない。 目の前の彼女は相変わらずにこにこ。 それは不敵な笑みにも見える。 「やっとあなたとバトルできる」 「…え、」 「ずっとダイゴさんとバトルしたかったんですよ!チャンピオンじゃなくて、あなたと」 ドクドクと鼓動が脈打つ。 ああ、僕は今興奮しているんだ。 チャンピオンじゃなくて僕とバトルをしたいと言ってくれたことに。 そう理解したところで、笑いがこみ上げてきた。 こんな子、初めてだ! 「僕も君とバトルしたかったよ、ナマエちゃん!」 「それは光栄です!」 「さあ、始めよう!君と"僕"にしかできないバトルを!」 どちらともなくポケモンを繰り出して、バトルが始まった。 僕の心臓はバトルが終わっても止まることはなかった。 今、隣に君がいるからかな。 残念ながらバトルは負けてしまったけれど。 僕は君が好きなんだ。 このバトルは負けないさ。 笑顔に捕らわれて (ダイゴさん、)(そう笑顔で僕を呼ぶ君を抱き締めたくなった) 090904 |