風介の顔に近づいていって、唇と唇を重ねてみた。風介は、少し驚いた表情をして私をみてから、不思議そうにたずねてきた。

「いきなり、どうしたんだ?」

『……別に。』

そう?と言ってさっきまでと同じように、本を読み始めた。1ページ読んではまためくる、単純な作業を繰り返すだけ。
構ってほしい、だなんて素直に言えるほど可愛い性格を私はしていないから、そっけない返答をしてしまった。
風介がずっと彼女に構うタイプじゃないのなんかわかってるよ、そんなの逆に嫌だしね。でも、あんまりにも構ってくれないのはこっちとしては悲しいものがあるんだよ。
まぁ、だからといって、いきなりキスというのは我ながらどうかと思うけど、呼んでも生返事だったんだから、しょうがないことにしよう。






それにしても、暇すぎる。今日は寒いからって風介のとこに来ただけで、お家デート的なのは良いんだけど、することないんじゃつまらない。
早く風介が本読み終らないかと考えたけど、残ってるページはまだ大分あって無理だとわかった。

『風介ー。』

ほら、やっぱり、呼びかけても無言。そんなに本が楽しいか、私だって本好きだけど、彼女が来てるのほっといてまで優先順位が高いのか!だんだんといらついてきて、しまいには本に嫉妬まがいだなんて情けない。



私は立ち上がって、ドアの方に歩み寄って行った。風介が気づいたらしく、どこに行くのか聞いてきたけど、直ぐには答えず、ドアを開けてから言った。

『…ひみつ。』





ドアを2,3回ノックしてから相手の名前を呼ぶとドアが開いて部屋の主であるヒロトが出てきた。

「なまえ?どうしたの。」

その問い掛けを軽く無視して、入っていい?と聞くと、いいけど。と返ってきた。久々に来たヒロトの部屋は、なんだか落ち着いていて、安心感があった。

「改めて、どうしたの?なまえが俺の部屋くるなんて珍しいし、今日は風介の所に行ってたんじゃ…」

もしかして、喧嘩でもした?だなんて、微妙に勘が良いのをやめて頂きたい。ヒロトはいつもこうだ。

『…喧嘩は、してない。』

「じゃあ、風介が構ってくれなかったとか?」

目を細めて微笑みながらも、核心をついてくる辺りがヒロトらしいな。それにしても、何故わかるんだ。

『…そう、だけど…、なんで?』

「風介以外の部屋に来るなんて珍しいし、喧嘩してないならそれくらいかなって」

私、そんなにわかりやすいのか。なんだかショックと不甲斐なさを覚える。

「全く、はやく戻りなよね。」

『別にいいじゃない。ヒロトに迷惑かけないように隅っこにいるから。』

「…俺まで面倒に巻き込まれるじゃないか。」

『むぅ……薄情者…。』

それに、と言ってヒロトは近づいてきた。そして、顔までも近づけて嘘くさい真剣そうな表情をした。

「どうなっても、知らないよ?」

『…冗談やめてよね。』

「冗談じゃない、っていったら?」

多分、私今あからさまに嫌そうな顔してる気がするわ。それなのに、笑顔を崩さないヒロトってなんなのかなぁ…。

『………』

「ふぅ、なまえってこういうの慣れてるのか俺を信頼でもしてるのか…、普通もう少し嫌がらない?」

それって嫌がって欲しかったってこと…?というか、ヒロトをそこまで信頼してる訳でもないし信頼してないって訳でもないけど。

『ヒロトって、性格悪いよね。』

「それはどうも。」

『…褒めてないし。』

まぁ、いっか…。それより、どいてくれないかなぁ…。って思ってたら普通にどいてくれた。そんなに顔にでてたのか。

「ほら、はやく戻りなよ。風介が来て勘違いされるの嫌でしょ?」

『うん…。』







何しに行ったんだかよくわかんなくなったまま、風介の部屋に戻って行った。途中で玲奈たちと会って今度出かける予定を作ったりしたけど、風介には言ってやるもんか。


ドアを開けると、そこに風介はいなかった。何処行っちゃったんだろ。まぁ、待ってればくるかな…。と思ったら後ろに人影が出来た。
もしかして、って思って後ろを向いたら、やっぱりそこに居たのは風介だった。

『風介、どうしたの…?』

なんとなく変な感じがして声をかけると、意外も意外、私を探してたんだって。何かのついでだったらしく、少しだけだとは悲しいけど。
どこに行ってたんだって質問されたけど、これは素直にいうべき?あぁ、でもちょっとくらい嫉妬とかしてくれないかな…。

『……ヒロトのところ。』

期待を込めて言ったところ、あれ、怒ってる?もしかして本当に嫉妬してくれたりしたのかな…。でも、そしたら私危険かもね。

「…なんで」

迫られてきたから後ろに下がってるけど、あぁ、これはちょっと真剣そうだな。それが格好良いだなんて思ってない、断じて。

『風介が私のこと全然相手してくれないからじゃない。』

「……」

むっとしたような、ばつが悪そうな顔をされたけど、私は別に悪いことしてないもの。本当のことでしょ?



「…すまなかった。」

『え……。』

途端に抱きしめられ、謝られた。こんなことしてくるなんて思っても無かったから、驚いて上手く言葉がでない。

「だから、ヒロトや晴矢達のとこに一人で行くとかやめてくれ…」

『……風介は、狡いよ。』

構ってくれなかったのはそっちなのに、一人で行くなとか、素直に謝られるのも、いいよ。って言いたくなるじゃない。
私だって、少し狡いことしたのなんてわかってる。だから、

『風介がアイスくれたら、許すし、言われた通りにしてあげる』

でも、今度はちゃんとデートしてよね。

2012.05.19

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