人は人のことを見ているようで見ていない。改めて今日、私はそのことを実感した。
私の目の前にいる隼総はそれはもう楽しそうに私に話かけている。内容は最近出来たと言っていた彼女のこと。
それを淡々と聞かされて適当に相槌を打ってるとはいえ、疲れるしイラついてくる。
そんな表情を読みとってか、隣で気まずそうにしている喜多とそんなことには気づいていない隼総。

隼総は学校内ではプリンスとか言われるくらいなんだから、確かに顔はいいし、しかも結構良いやつだったりもするのでモテるのも彼女が出来るのも納得だ。
けれど相手は他中だというんだから、私は相手を見ることも出来ず、想像するしか術がない。本当、惚気なら余所でやれって言うんだ。

とか悪態つきつつも、私も隼総を好きになった人の一人なんだから、内心もやもやしっぱなしなのはもう目に見えてるだろうよ。
なんで、好きな人から彼女の話を聞かされなきゃいけないのかわけわかんない…。近いうちに泣きだしても知らないぞ。
その気持ちを喜多は知っているから、最初に隼総の話を聞かされた時は心配してくれたし、今だってそうだ。
タイミングを逃したんだと思うけど、私をおいて逃げていかないでくれる。西野空はさっさとどっか行きやがった。見つけたら八つ当たりに殴ってやる。

時々、聞いてんのか?って言われるけど、聞いてる聞いてる。と適当に返すと話を続行し始めるんだから聞いても聞いてなくても同じってことだ。

もう振られることなんかわかりきってんだし、駄目ってわかっていて告白する勇気も何も無いんだから、
次の恋でも探してみたらどうだって思うかもしれないけど、それが出来たら苦労はしてない。好きって気持ちが私の中から無くならないんだもん。




チャイムの音が鳴り、一先ずは解放された。この時ばかりは授業が始まるのが嬉しいね。
でも、どこかで隼総の近くにいられる時間じゃなくなって残念。だなんて思ってる自分がいるんだから自分自身が嫌になる。

我が儘ばかり、もう諦めれば良いのに。








彼女が出来た、そうなまえに言ったのはいつだっただろうか。結論から言えば、彼女が出来たなんて全くの嘘だ。出来てる筈が無いだろ、俺はなまえが好きなんだから。

少しでも嫉妬とかを覚えてくれたりしたら、なんて無駄な期待を持ってなまえに話をするものの、
ただ適当に相槌をうってなんでもないような顔をして俺の前に座ってる様子からすれば、きっと俺はなまえにとって只の友達でしかないんだろうな。
そう考えると、驚くことに結構ショックを受けてる自分がいて、なんだか虚しくなってくる。

こんなの、意味は無いんだろうけど、もしもなまえが俺に気が少しでもあるならいつかは恋愛感情を持ってくるんじゃないか、って思うことしかしない俺は、どんだけセコいんだろう。

いっそ、当たって砕けろで告白でもしてみようか。そう考えたこともあるけど、俺の性格を考えてみろ、無理だ。
所詮俺は素直になんかなれないし、結構性格曲がってる。

溜め息なんかついても何にもならないってわかってんのにどうしても出てしまう。
あーあ、このままだったらマジで彼女いるってなまえに思われたままかな…。正直、いやになってきた。なんでこんな方法思いついたんだよ。
出任せだって、適当に思いついたやつか、結構前とかの女のをごちゃまぜにしたものだからそろそろ話す内容だって無い。いっそわかれたことにするか、それも一つの手だよな。


そういえば、前に喜多から言われたことがあったな。もたもたしてるとなまえを奪うって。つまりは、喜多もなまえが好きってことだよな…。
はぁ…、最悪だ。もし喜多が本気だしてみろよ、だって結構喜多と仲良いんだからすぐおちるだなまえろうな…。それは凄い嫌だ。喜多だからとかじゃなくて、やっぱなまえを誰かに取られんのは絶対に嫌だ。


なんで、なまえなんかの事でこんな変な気持ちになんなきゃいけねーんだよ!
はっきり言って、授業なんてこれっぽっちも頭に入ってこないし、さっきから別のことしか考えてないからノートだってとれてない。
ったく、俺にどうしろって言うんだよ、俺より前の方の席にいるなまえは真面目に授業を受けてるってのに…。

…あ、そうだ。なまえにノート見せて貰おう。そしたら、返す時にでも話したら良いしな。そん時に、どさくさに紛れて告白でもしちまえ。…死にたくなったら、部活に行くのを口実に逃げれるし。



とりあえず……、




作戦決行まで後25分。

title by金星
2012.05.10

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