※ネタバレ有り



私のいる村では、干魃に見舞われることがあった。そして、それが神様の怒りだと信じられていた。
その怒りを鎮める儀式として、女の子が一人、海に流されることになっていて、そのことはもう、普通だったから何の疑問も抱かなかったけどね。

村の会議で、今回は誰を流すかがサッカーみたいな物で決めることになって、一人はシュウって子の妹、一人は私、どっちかがこの島を離されることになった。

…とりあえずはまだ、此処にいられるんだ。少し不安にもなりはするけど、それまでは楽しもう。そうすれば、後腐れもなくなる。気が早いかもしれないけど、別にいいや。
変かもしれないけど、別に、私が捧げられても良いと思ってた。村のためとか、そんな思いはあまり無かったけれど…。





そうして、しばらくたった日のこと、ある出来事が起こった。私のチームの人に、シュウが負けてくれって頼んだらしい。
らしいっていうのは、直接私が見たわけでもないから。最初は耳を疑った、けれど、これが現実かって、そう思った。
幻滅をしたわけでは無かった、妹のことを思っている証拠だもん。寧ろそれが羨ましかった。


結果、そのことがバレてシュウは村から全てを取り上げられ、追放された。
そして、シュウの妹が生贄にされることが決まった。私の周りの人たちからは、安堵の声があがったり、中には良かったなんていう人も。



…良かったって、なにが?なんで、そんなこと言えるの?あぁぁぁ、駄目、初めて村の決まりに疑問をもった。決まりにも、周りの大人達にも。どうして、なんで…

そうしてる内に、私の足は走りだしていた。




『村長っ、私をあの子の替わりに生け贄にしてください…!』

答えは、ノー。わかってはいたけど、それでも、なんとかしたかった。シュウがいなくなるなら、妹は此処にいても喜ばないかもしれない、だけど…。

何を言っても答えは変わらなくて、シュウを森に追放しないでって訴えも届かなかった。あぁ、私はなにも出来やしないんだ…。




その後、なんであんな行動をしたの、って言われたりした。私にもわからなかった。本当、何やってたんだろ…。
でも、その時は、間違ってるって思って、村の掟を守るのは大切。だけど、人を想う心の方が大切なんじゃないの?そう思ったから…。


儀式の数日前に、シュウの妹に会って話をした。私よりも年齢的に年下の筈なのに、落ち着きがあるというか、なんだかとてもしっかりしているイメージを持った。

『…ごめん、ごめんね。』

「どうして貴女が謝るの?」

『私は、何も出来なかった。シュウも、貴女も、助けられなかった。』

「しょうがないよ。どちらかがいけにえにならなくちゃいけない。それが私だっただけ。私は村のためなら平気だよ。」


どうして、貴女はそんなに強いの、弱さを出さないの、私はこんなにも…。悔しいとか、恥ずかしいとか、悲しいとかが混ざって、よく解らなくなる。
彼女は少し震えていた。やっぱり、怖いものは怖いんだ。微笑んだ顔もどこか苦しそうで。

どうしようもなくなって、抱きしめると、驚いたような素振りをしてからありがとう、と囁かれた感じがした。







干魃は過ぎさって、私は森の奥に行くことにした。本当は彼女が捧げられる前に行きたかったけど、シュウの追放を取り消せとか、私が替わりに、とか言ったせいか、森の奥、シュウのいるであろう場所に行かせては貰えなかったから。
今なら、一目を憚って行ける気がして。多分、まだ生きてるだろう…。別に、お前が生贄になれば良かった、なんてことを言われても良い。とりあえずは、会って話したいそれだけ。





『見つけた…。』

黒い髪をした男の子。シュウが木にもたれ掛かって座っていた。私が近寄ると、シュウは少しだけ顔をあげた。

「…なに、ボクを笑いにでも来たの?」

自嘲気味に笑みを見せながら言ったシュウ。あぁもう勘違いも甚だしいよ。

『そんなわけないじゃん。私は、君を蔑んだりもしない。…ある意味で尊敬してるもの。』

「…尊敬?」

何言ってるの?…ボクに尊敬出来るところなんてない。こんなに、弱くて惨めなのに。妹一人、守れやしなかったっ…。そう言ったシュウは、悔しそうに見えた。

『でも、守ろうとしたじゃない。どんなやり方であろうと、それには変わりない。そうでしょ?ならそれは立派な強さだ。』

「そんなもの、意味がない!…ボクに、力があれば!そうしたら、あいつを守れたのに!…結局は、強くないと無駄なんだ…!」

『……そう。』

シュウがそうやって思うのも、自然だと思った。きっと、この状態だったら、私がシュウでも同じことを思うかもしれないから。でも、少し残念でもあった。

『………私は、君達が羨ましかった。』

「え…?」

『私には、兄弟はいないから、周りに仲の良い人がいても、君みたいにそんなに必死になってくれる人はいない。だから、君のあの行動も、正直言って尊敬したの。人のために動けることが、羨ましくて…。』

「それで、ボクを尊敬するだなんて言ったの?」

『うん…。』

君は知らないと思うけど、私はあの後、村長に掛け合った、私を生贄にしてって、でも駄目だったよ…。
そう言ってる内に、自分の手が震えてきているのがわかった。握りこぶしをつくっても、なお震えが止まらない。

『私も、自分の無力さが嫌になったの…。』

悔しさが思い出されて、顔が歪まっていくのがわかる。あぁ、シュウに暗い顔をさせちゃった。


『…ごめんね、だから何っていうわけでも無いんだ。別に一緒だねなんて言いたいわけでも、なんでも…。』

じゃあ、戻るね。なんとなく、君と話をして、伝えたかっただけなんだ。
そう言ってから、歩きだそうと振り返ったとき、私の手は掴まれた。

「……ありがとう。」

『私は何も出来てないよ…。』

「でも、言っておきたかったんだ。」

『…なら、私も、ありがとう。』

考えを変えさせてくれて、居てくれて。ありがとう。


「君は…面白いね。」

『そうかな…?』

「うん、とっても…。」

そっか…。…なんだか、シュウと話してるのは楽しいかもしれない。もっと話しておけば良かったな。きっとそんなこと、思っちゃいけないんだろうけどね…。

















その後も、時々シュウのところに行ったりしていた。あまりは行けなかったけれど、
それでも会いに行ってた。話てるのが楽しかった。でも、日に日にシュウが弱っていくのがわかっていた。
食べものを持ってったりもしたけど、あまり食べてくれなくて、私が行ってもサッカーをしてることが多かった。




ある時、私はやらなきゃいけないこともあり、なかなか森に行けなかった。急いで、ことを済ませようにも無理だった。


そして、シュウに会いに行った。ちゃんとお詫びもしなきゃって思って。
人影を見つけたら、それはシュウで、初めて会いに行った時と同じように、木にもたれ掛かって座っていた。
シュウ、って声をかけても反応が無くて、寝ているのかとかよりも先に、不安になった。

もしかして…、とか、でも…、とか、色々頭の中に浮かんできて、駆け寄って、何度も声をかけて、身体を揺さぶってもみた。

『シュウっ、シュウっ、シュウ…!!』

視界がぼやけて行くのがわかる、目が熱くなって、シュウの姿が滲んで、滴が落ちる。ぽたぽたと私の足や、手、地面に落ちては広がっていった。


ふと、シュウの周りを見ると、ボールが落っこちていた。少し強い風が吹くと、転がりそうにもなっていた。
あぁ多分、またサッカーやってたんだな…。きっと最後まで、恨んで

今もまだ、強くないとって思ってるんだろうな。私も少しそう思うよ。私に力があったら、シュウも、シュウの妹も守れて、私が替わりになれたのに。
私で無い誰かなら、シュウ達を救えたのかな…。ごめん、ごめんね、


『…、ありがとう。シュウ。』

さようなら。


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