いかく
 

「んじゃ、お世話になりました」
「ええ、お大事に。何かあったらお知らせくださいね」

にっこり天使スマイルで見送られ、ポケモンセンターを出る。
どんな心境の変化なのか、不気味なほど大人しいチビと、片手を塞ぐフーズの袋も一緒に。
引き取り手もいないし野生に戻すのも不安ということでゲットってことになっちまったんだけどこれ大丈夫なのか…?チビはオーケー出したんだよな…?その辺はジョーイさんに任せっきりだったので正直よくわからん。


あの日、ジョーイさんに迅速な手当をしてもらった腕は、軽く包帯こそ巻いてあるもののほぼ完治した。俺がそのまま追い返され、翌日に様子を見にきた時は既に態度は一変していたのだ。
チビは今も大人しく後ろをついてくるが、こちらと目は合わせない。
マジで何があった。ポケモンの表情読みにくいにも程があんぞ。

「あーっと、ボール入ってもいいぞ?ただ逃げるのは待ってな。一応経過観察あるらしいから」

帰ってくるのは無言。いやまあ急に饒舌に喋られても困るんだけども。そもそも言葉を理解しているのかは微妙だし。相変わらず三歩後ろを保ったままついてくる。
あー…正直どう接すればいいか分かんねぇし、とりあえず放っておかせてもらおう。まず家に帰んねえと。

「お前、チャリの荷台乗れる…わけねえよなあ」

ぱち、とほんの一瞬だけ目を合わせるものの、すぐにふいっと逸らされる。これ埒が明かねぇな。面倒だ。

「ちょっとじっとしてろよー」

脇に手を入れて持ち上げ、そのまま前カゴにIN。ママチャリでよかった。ついでにコイツがちっこくてよかった。触った瞬間身体が強張ったようだが気にしてたまるか。フーズの袋をハンドルにかける。うわおもい。

「っし、落ちんなよ」

カシャンとスタンドを上げると、カゴにかけた手?前足?に力が入ったのが見えた。まあポケモンってのは頑丈だし、人間よりは身体能力高いだろう。落ちない落ちない。
よっこらせと漕ぎだした風を受けたからか、小さな耳がピクピク動いた。



「ついたぞー」

町外れ、ちらほら見る草むらを避けゆっくり漕ぐこと数分。見慣れた…このチビにとっては二度目の我が家である。一度目は覚えてないかもしれないが。
スタンドを降ろしてもチビは動く気配がない。そりゃあ最初は怖かったろうが、ここにつく頃には風を浴びて気持ち良さそうに目を細めていたので問題はないだろうに。

「降りれるか?」

聞けば、ふいと目をそらされる。
身を乗り出してぴょんと飛び降りたチビは、すっと俺の三歩後ろについた。
はやく入れってか。随分生意気になったもんだな!




それにしても我が家に自分以外の誰かがいるっていうのも相当な違和感である。一人暮らしが長いんだ仕方ない。恋人なんていなかった!!!
放っておいたら一人用のソファーに埋まったチビを横目に、とりあえず飯かとビニール袋からフーズを取り出した。畜生めちゃくちゃ重かったぞこれ。旅人はこれも荷物のうちなのかマジ信じらんねえ。

「おーいチビー 飯だぞ飯ー」

クッションとクッションの間からのぞいていた耳がピクリと動いたが、それ以上の行動は見られない。何だあいつ。子供は飯って聞いたらすっ飛んでくるのではなかろうか。警戒心がぬぐえない。

「ほら、ちゃんと食えよ。まだ病み上がりだろ」

ことりと皿をおいても相変わらず辛うじて見える耳がピクピク動くだけである。警戒してる割にそのソファーは俺の定位置なんですけどね。そのクッションは普段俺の枕ですけどね。こいつ鼻が効くらしいし、俺の匂いとかするはずなんだがそれはいいのか。


…よし、チビのことは放っといて、俺は俺の飯をつくろう。

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