にほんばれ
ああくそ。にんげんめ。
体中が痛くて重い。あいつらに飲まされた変なもののせいか、どくん、どくんと音がする。ふざけるな。つらい。息ができない。にげなきゃ。
森を抜けると、小さな家があった。にんげん。にんげんはだめだ。またつかまる。
「お?」
出かけようとドアを開けたところで、家から少し離れた所に何か倒れていることに気がついた。なんだこの水色は。おそらくポケモンだろうけど、ここいらでは見かけない。
「おい。大丈夫かお前」
なんつったっけなあ。確かルカリオの進化前だ。こんなところで見かけるなんて珍しい。手を伸ばして抱えようとすると、見るからにボロボロのそいつは薄らと片目を開けて唸り声をあげた。
「おーおー無理すんなよ。まだ元気そうだな」
しゃがんで目を合わせてみるが、唸り声は止まずに一層ひどくなる。だめだこりゃ。見るからに辛そうで、どうにかして手当てをしたいんだが、生憎うちにはキズ薬なんて置いてない。
「よし。ちょっと待ってろ」
一度家に戻って物置をあさる。確かここらに…よし、あったあった。見つけたものを持って水色のもとへ。
「まあ、後で壊してくれてもいいからな。一時的に保護されてくれよ。お前だって死にたくねぇだろ」
果たして聞こえてるのかどうか分からないが、一方的に言い聞かせてから赤と白のボールを放った。赤い光に包まれて、水色は唸ったままボールの中に収まる。ああもう、やっぱり体力限界だったんじゃねえか。
そういやこれって逃がす時どうすんだろうな。壊せばいいんだろうか。とりあえず今はポケモンセンターに向かおうと、虫除けスプレーを体に吹きかけて自転車に乗った。
ポケモンセンターに着いてボールを差し出すと、中を確認したジョーイさんの目つきが変わった。天使の笑みが一気に真剣な顔になる。
「何故こうなったのか、お話しを聞かせてもらってもよろしいですか?」
まあ当然疑われるよなあとため息をつく。その間に預けたボールはどこかに運ばれたようで、カウンター越しの空気が張り詰めたのが感じられた。相当ヤバイ怪我らしい。
「そいつ、家の前に倒れてたんですよ。キズ薬とか持ってなかったので、とりあえず捕まえて連れてきたんです」
「そうですか…」
少しの間迷ったように視線を漂わせたジョーイさんは、意を決したように口を開いた。
「あの子…リオルはかなりの重体です。通常のバトルによる怪我とは考えられません」
「つまり、人為的ってこと…ですか?」
ジョーイさんは深く頷いた。
「一目見ただけでは詳しいことは分かりませんが、少なくとも毒と麻痺を併発しています。おそらくは火傷も。症状の重さからして、ポケモンによる天然毒ではないでしょう。誰かが故意に…」
目を伏せたジョーイさんに何も言えなくなる。おいおい、あいつマジでヤバイんじゃねえか。そりゃ俺にも唸るわ。
頭を抱えていると、ジョーイさんが顔を上げて少しだけ微笑んだ。所謂営業スマイルですね。強い人だ。
「リオルは、元々あなたのポケモンではないようですね。どうしますか?」
「いやーこのまま帰るのも目覚め悪いんで、あいつが起きるまで通いますよ。一応ゲットしちゃったしなあ」
「ふふ、そうですか」
やっと天使の笑みが戻ったジョーイさんと(ポケモンセンターの)連絡先を交換して、ひとまず家に戻ろうと自転車にまたがる。やっべえ家の鍵掛けてねぇや。