王ドラ夢
 

やばい。これはやばい。確実に熱が上がっている。
ふらふらしながらやっとの事で家に帰る。いつもより重く感じるドアを開けた。

ちょうど遊びに来ていたのか「おかえりなさい。お邪魔していますよ」という王ドラの声が聞こえた。家に誰かがいるということに安心してしまい、座り込んで靴を脱いだところで動けなくなってしまう。
いつまでも部屋に入ってこない私に心配したのか、王ドラが迎えにきた。私の顔を見るなり顔をしかめる。

「どうしたんですか?顔が赤いですよ?」

王ドラには悪いが、限界だったので寄りかからせてもらう。王ドラの身体は冷たくて、ロボットだからかなぁとくだらないことを考えた。気持ちが良くてへへっと笑うと、ハッとした後に睨まれてしまった。

「ちょっとあなた!熱があるじゃないですか!!」

こんなに熱いのに無理するなんてとぶつぶつ言いながら、私より小さい体でベットまで引きずられた。流石ロボットだ。何馬力だったっけ

「その格好じゃあ寝れないでしょう。早く着替えてください。」

私は飲み物を持ってきますからと、出て行った王ドラを見送ってから、着替えを用意しないといけないことに気がついた。なんとなく、彼らしくないと思う。この前エルマタが寝込んだ時の彼の手際の良さを思い出して少し笑った。そんなに動揺していたのかな。

脱いだをハンガーに掛ける余裕はなくて、悪いと思いながらも脱ぎ捨てたままくたりとベットに倒れ込む。冷えたシーツが気持ちいい。

「入っても大丈夫ですか?」

ドア越しに声が聞こえた。んーだとかあーだとか、気の抜けた声で返事をすると、ゼリーとスポーツ飲料をお盆にのせた王ドラが入ってくる。
脱ぎ散らかされた服を見たはずなのに、何も言わなかった。いつもは色々とうるさい癖に、と思ったけれど、軽口を叩くほどのエネルギーは残っていない。

「薬を飲んだほうがいいのですが…食べられますか?」とゼリーを見せる王ドラに、食べると頷くと、わざわざ身体を起こしてくれた。よりかかる体制だった体も、ひょいとベットの上に座らせてくれる。
そこまでしなくてもいいのにと苦笑すると、病人は甘えておきなさいと怒られた。「ほら口を開けて」と言われたので、自分で食べると断る。ジト目で見られたが、流石にここは譲れない。

いつもの2倍の時間はかけてゼリーを半分と薬を飲んで横になると、いつの間にか王ドラが隣に椅子を持ってきて、私をすこし上から覗き込んでいた。
「…大丈夫、ですか?」
たっぷり間を空けてから小さな声で言った王ドラに、ありがとうと言って私は目を閉じた。


目を開けると、分厚い本を読んでいる王ドラが見えた。どうやらずっとベットの脇にいてくれたらしい。起き上がろうと身体を動かすと、少し驚いたような王ドラと目があって溜め息をつかれた。

「起きましたか。熱は…少しは下がったようですね。」

額にぺたりと手を添えられる。ほっとしたような顔から眉が釣りあがっていく過程が見えた。なんだこれおもしろい

「だいたい貴女は…どうせ普段から夜更かしをしているのでしょう?食事だって三食きちんと食べているのですか?貴女のことです。朝食を抜いたりしていてもおかしくありませんよね。」

最近忙しくてと誤魔化した。事実、軽々しく引き受けた仕事だったり、締切が重なったり、ちょっとしたミスが相次いだりと色々立て込んでいて、ここ1ヶ月は大変だった。正直思い出したくはない。

「それでも、自分の体調くらいしっかり管理してください。自己責任ですよ。」

ツンとした王ドラに少しムッとする。
私だって頑張った。そりゃあ無理はしたけど、投げ出さずにやり遂げたのに。少しは褒めてくれたっていいじゃないか。

熱のせいかぼんやりした頭でふいっと目を逸らしていると、聞いているんですか!と怒られた。頭に響いて思わず顔をしかめる。大体貴女はー、なんて続く声を聞き流していると、ふと、少しだけ声のトーンが落ちた。

「私がどれだけ…どれだけ心配したと思ってるんですか。久しぶりに遊びに来てみれば貴女はふらふらで帰ってくるし… 」

うつむいて話す王ドラに、流石に申し訳なくなった。「ごめん」というと、「許しません」と帰ってくる。目を合わせてほしい。

「私は、ロボットなので、熱が出ることはありません。故障したのなら直せばいい。ただ貴女は違うでしょう?貴女は人間です。そう簡単に治らないんですよ?」

段々と声が小さくなっていく王ドラを見ていられずに、勢いだけで手を掴み、ベットにひきずりこんだ。

「なっなななな何をするのですか!」

ボンっと音が出そうなくらいに真っ赤になった顔を見て笑ってしまう。そうそう。こうじゃなきゃ。熱っぽい身体にヒンヤリした王ドラの身体が気持ちいい。

離してくださいとギャーギャー喚く王ドラに、もう一度「ごめん」と言うと、また「許しません」と返ってくる。ごめんってばとか私は大丈夫だからとか、支離滅裂なことを言い続けていると、睡魔が襲ってきた。まだ本調子ではないらしい。

おやすみーといって目を閉じると、「えっ貴女このまま寝るつもりですか!?」「せめて、せめて離してください…!」「ちょっと聞いてますか!?」とか色々聞こえたが、全部無視して寝ようと思った。病人に説教をした仕返しと、少しのお礼を込めて力を込める。
おやすみなさい




──────



「(やばいお腹痛い…生理痛か…や、でも寝るだけだし薬やだなぁ…あやっぱ無理薬飲もう)」

「…どうか、しました?」
「あ、王ドラ。ごめん起こした?すっごい眠そう」
「いえ… どこか、体調でも悪いので…?」
「ちょっと腹痛。大丈夫だよ。薬飲めば治るし」
「ああ…頭痛、とかは…?」
「大丈夫だって。それより早く寝なよ。目が開いてないよ」
「そんなこと、ないです、から」
「いや寝なって。ゆらゆらしてんじゃん。私薬飲んだら寝るから」
「ん、では薬を飲んできて、ください」
「はいはい。おやすみ王」

「…王ドラ何してんの?そこ私の布団なんだけど」
「貴女の、体調が、優れないようなので」
「返事になってないんだけど…」
「ほら、冷えますよ。はやく入って」
「えっ、えー。いや私はいいけどさー」
「腰、さすってあげますから」
「あ、それは素直にありがたいです」
「おやすみなさい」
「おお…明日が怖いな…おやすみです」


「なななななんですか!?なにが!?これは!?」
「朝からうるさ…王ドラおはよ」
「おおおはようございます!?」
「何で疑問系…言っとくけど、王ドラが私の布団にはいってきたんだよ。昨日。」
「ううう嘘をつかないでくださいますか!?」
「いや本当だって…お世話になりました」
「なにしたんですか私!!!」

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