夕暮れの
聞き覚えのある声が聞こえた、気がした。茜色に染まる空が、昇降口の向こう側に見える。
夕焼けは嫌いだ。どうしたって思い出す。無駄に元気な後ろ姿が2つと呆れながらも笑ってついていく自分。そして、もう1人。忘れられない、彼がいる。
頭がおかしいに違いないのに、喉のずっと奥に張り付いたように離れない、ただの夢の話だ。
履きなれたローファーに手をかけると、パタパタとこちらに近づく音がした。勘弁して欲しい。今は、だれにも会いたくないのだ。放っておいてくれないか。
「どうかしましたか?」
ああ、最悪だ。その声を知っている。記憶にあるより若いけど、知っている。
「隣のクラスの方ですよね。確か、名前は」
「やめて」
遮ると、ただでさえ丸い瞳がさらに丸くなる。きょとんとした顔に、どうしようもない懐かしさを感じた。
「呼ばないで、名前」
お願いだから、と発した声は予想外に震えていた。逃げるようにローファーの踵を踏み潰す。
「ボクはなにか、気に触ることをしてしまいましたか?」
「·····そうじゃないのよ。そういうことじゃないの」
「では、」
同じだ。声のトーンも、張り方も。次になんと言うかも想像がついてしまう。そんな声を出されたら、私は立ち止まらずにはいられないのだ。だってずっとそうやってきた。いつだって、思い通りになりゃしない。
「ボクは、あなたと友人になりたいんです」
「·····ほんっと、強情ね」
知っていたわよ。強情で、どうしようもない奴だなんて。