ギャルゲー的アリス男主
 



「なー、つばさー」
なにやら落ち込んでいるらしい背中に声をかける。途端、視界の端に映る選択肢。

▽励ます +1
▽叱咤する +1
▽抱きしめる +2

なにやらたまに見えるこれは、アリスというやつらしい。おれもついこの前知ったばっかりで、未だによくはわかんないんだけど。
まあ、出来たてのともだちにすることは決まっている。

「なあ、元気だせってば」

グズグズしているやつの隣にすわって、背中を叩いた。ああー『励ます』が選ばれたなという感覚。よくわかんないこれ。

───

中等部に上がって、ギャルゲーなるものを知った。いやいや俺のアリスまんまこれじゃねえかおい。おい。

「何だこのくそアリスは……」
「女の子落とし放題だろ。羨ましい」
「ところが残念。これは男にも有効だ」

まじで?と真顔で顔を上げる翼。まじです。

「なんならお前が凹んでる時に『抱きしめる』を選ぶことも可能だ」
「……絶対やめろよ」

▽やる +1
▽やらない +1

「頼まれたってやらねえ」
「安心したわ」

さくっと下の選択肢が選ばれた感覚がする。ところでたまに出てくる選択肢の横の数字は何なんだ。翼相手だとプラスしか出なくて参考にならないんだが

───

いつもの空き教室でサボろうと思ったら先客がいた。

▽励ます +2
▽叱咤する +2
▽抱きしめる +3

「……俺の前で凹まれると、もれなく抱きしめるぞ」
「まじでやめろ」
「うす」

思ったより元気に拳を握られたので大人しく離れた席に座る。ここ、俺が発見した穴場なんだけどよく見つけたなこいつ。

「で、どしたの」
「いや……俺に何ができるかなって……」
「あー 後輩ちゃん」

俺あんま絡みないけど。でも、太陽みたいな子が、やばい大人と戦おうとしてるのはわかる。コイツがその子を気にかけてることも。

はーーーとひとつ大きくため息をついた。こいつ……我が友ながらめんどくせえなあ……

「おまえは先輩しときゃいいんじゃねーの」
「は?」
「後輩ちゃんの先輩として、安心させてやればそれでいいだろ。そもそもおまえ強いじゃん。星没収されてたけど」
「……最後のはいらないだろ」
「俺より使えるアリスだからって傲慢な考えしてんじゃねーぞ。おまえはただの中学生だよばーか」

あ、これ『叱咤する』が選ばれたわ。叱咤とは一体。

「俺は何があっても翼の友達をやめないし、翼はなにがあっても先輩をやめない。それでいいだろ」
「……おう。さんきゅ」

でもバカはおまえだバーカ。
翼が吹っ切れた顔でこちらに吐き捨てたので、こちらも脅しをかけておくことにする。

「次お前が泣いたら、『抱きしめる』選ぶからな」
「泣いてない勘弁してくれ」

────────


「だか、ら……泣くなって、ば」
「泣いてねぇ!しゃべんなバカ!」

脇腹が強く押される。おいこれ力強くないか感覚はないけど。こっちはお前と違ってクソアリス持ちなんだぞ。やさしくしてくれ。

いやはや残念、怒っているのは分かるのに、全くもって声が聞こえない。爆発で鼓膜がやられたようで、自分が何を言ってるのかもよく分からん。これ俺声出てる?大丈夫?

だがしかし、こんな時でもあの不気味な選択肢は見えるのである。いや、こんなときだからか。もうほんとに呪いだろこれ。
視界の端にチラつくいつもの選択肢が、翼を見るのを邪魔する。こんな時でも数字はプラスなんだろうか。霞んだ目ではよく見えないけれど。プラスなんだろうなあ。コイツ、俺のこと相当好きだから。

「つ、ばさ」
「……なん、だ」

涙を浮かべたままの毅然とした目が、こちらを見た。よしよし。お前はちゃんと、目的を果たすべきだよ。

かろうじて動く右手で、胸ぐらを掴んで引き寄せる。ごちんと額がぶつかった。あ、やべ失敗。

「な、」
「生きろよ」

気楽に、楽しく、しんどくても、ちゃんと

翼は何かを叫んでいるようだったが、死んだ耳とぼやけた視界では読み取れず。背中に回そうとした手が、どこまで動いたかも分からない。




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