一括夢主で現代モノ
 

常識の範囲のチート主で現代モノのクロスオーバー読みたい。モブサイコ100
デフォ名・結崎真尋
市区町村のことは考えてはいけない。

──────

ビニール袋を片手にぶら下げた霊幻が事務所に戻ると、入口の前に女性が立っていた。客かと一瞬警戒した霊幻だったが(あやしい事務所にはあやしい客がよく来るものだ)、見覚えのある風貌に肩の力を抜く。片手をあげると、女性はにんまりと微笑んだ。

「よ、どうした?」
「やーやー、れーげんさんじゃないですか。どうです?最近調子の方は」
「おっと人違いだったようだ。すみませんちょっと今取り込んでまして。相談ならまた後日」
「ごめんちがうちょっと真似したかっただけなの!!ドア閉めないで!!指挟む!!あっ」

両側から引かれて軋んだドアは、女性側の力が一気に抜けたことで勢いよく閉まった。思っていたよりもずっと軽い手応えに首をかしげて、霊幻はドアを開ける。ゴッと鈍い手応えと、カエルが潰れたような音が聞こえた。

「………すまん、大丈夫か?」
「らいじょぶ……」

鼻を抑えた女性は、ふらふらと事務所に入っていった。霊幻にそれを止める手立てはない。ついでに茶でも淹れてやることにする。
久しぶり、という程でもないが、ここ数ヶ月は見ていなかった顔だった。なんとなく、少しやつれてはいるが。
友人と言うべきか、腐れ縁というべきか。忘れかけた頃にふらっと現れるのが、この結崎真尋という女性だった。

「で、何の用だ?結崎」
「近くまで来たから、会ってこうと思って」

お茶を出してやると、女性─結崎は、先程とは打って変わってニコニコと喋り始めた。勝手にビニールから取り出した未だ鰹節の踊るたこ焼きを、熱がるそぶりすら見せず躊躇なく口に放り込む。

「最近すごいお腹空くのよね」
「……おまえ、それ有料だかんな」
「おっけー今度買ってくるわ」
「今度っていつだ。金を払え金を」

パクパクと口に運ぶ様を全部食べやしないだろうなと眺めていると、結崎は律儀に半分残して串を置いた。少し物足りなそうに、それでも落ち着いて茶を啜り始めた彼女に、霊幻は少し冷めたたこ焼きを頬張りつつ尋ねる。

「………で?」
「で、って?」
「さっき聞いたろ。何の用だ?」
「さっき言ったわよ。近くまで来たから!」
「だーかーらー、俺はきっかけじゃなくて要件を聞いているんだよ」
「でたわね屁理屈坊主。だからアンタはモテないのよ」
「おーけーわかった。早く帰れ」
「じょーだんだって……」

んんーと唸ってから、結崎は言いづらそうに口をむにむに動かした。まあ素直に言わないだろうとは思っていたので、霊幻も気長に待つことにする。幸いにも今日は飛び込みの客でも来ない限り暇だし、なによりたこ焼きは美味しかった。カリカリに焼けた表面、噛み締めると口に広がる出汁の風味、とろりとした熱さが口の中に広がって──

「除霊、してくんない?」
「……ふぁ?」
「いや、除霊っていうかマッサージ?をしてほしくてね?あと青のりついてる」

ごくんと飲み込んで、ついでに口まわりも拭いて、霊幻はにっこりわらって口を開いた。

「この霊幻新隆におまかせを!」
「胡散臭いわねほんと……」
「つきましてはコースのご相談なのですが、この60分3000円がおすすめかと」
「駅前のマッサージ屋より20円高いわよ」
「細かいなお前。それは除霊効果分だ」
「やっすい除霊だわあ……」

片や生き生きと、片や呆れ顔で言葉を交わし、「じゃ、お願いするわね」と結崎がサインをしようとペンをとる。と、何かに気づいたように顔を上げた霊幻が片手でストップをかけた。

「モブは?……そうか」
「………なに?」
「……あー、やっぱな」
「は?」
「おう、頼む。知り合いなんだ」
「ちょっ、霊幻?」

突然あらぬ方向を見て話し始めた霊幻に、とうとう壊れたか、と結崎は後ずさる。まるで、そこに何かがいるようではないか。様子のおかしい彼の肩を叩こうと手を伸ばすと、ふっと身体が軽くなる感覚がした。首筋に突きつけられていたピリピリした感覚と、鈍い頭痛も収まっている。

「………お?」
「さんきゅな。……どうだ?」
「なんか、軽く……というかこっちのセリフなんだけどそれ」

キョロキョロとあたりを見回した結崎は、「あんた、霊感ないわよね?」といって首を傾げた。知り合い柄、不思議で怪しいものには慣れているものの、“こちら側”だと思っていた知人が突然宙に向かって語るのはちょっとしたホラーである。

「あー、ちょっと特例でな」
「ふうん……ありがと。実は結構しんどくて」
「らしいな。礼ならあの辺に言ってくれ」

ピッと指されたなにもない空間に向かって、結崎はしっかりと頭を下げて礼を言った。霊幻が「ほらな。こういう奴なんだよ」とか色々言っていたが、結崎にはよく分からない。そのまま財布を取り出すと、今度は霊幻が首を傾げる。

「おい、まだ終わってないぞ?」
「ん?除霊、してくれたんでしょ?」
「そっちじゃない」
「んん?」

霊幻は呆れ返って、サインのない契約書を掲げた。

「悪霊に頭までおかしくされたのか?マッサージ、60分、3000円」

そういえばこいつはこういうやつだったわと、結崎は笑ってペンをとった。


──────

多分このあとマッサージされながら近況報告してご飯いく。結崎がめっちゃ食べる。会計は結崎が持つ。


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「特例さん?にもお礼したいんだけど」
「久しぶりの大物で腹も脹れたからいいってよ」
「そう…… ん?」






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