いっかいめ
 

私の持っている一番古い記憶は、貧しい村の貧しい暮らしだ。
あの時、私はたしか、6つか7つくらいの女の子だった、と思う。酷い飢饉で、子供はほとんど死んだ。飢えて死んだ子もいたし、昨日まで笑顔を浮かべていた子が翌日には骨になっていたなんてこともあった。あの子はみなしごだったから、もしかしたら誰かに食べられたのかもしれない。今となってはわからないけれど。

たぶん、"私"の最初は、あの時ではなかったのだろう。記憶があるわけではないが、あの時、私はすでに知りえない知識をもっていた。食べられる木の実、薬草、罠の仕掛け方。まるで体に染みついているかのように、幼いころから、さまざまなことを知っていた。

私が周りの子より長く生きられたのは、これが原因だった。
幼いながらに山に入っては、なにを教えられることなく食料を手にして戻ってくる。そんな私を、村の人たちは崇めた。少ない食料を、優先的に回された。
私とて何もせずにいたわけではない。何度も山に入ったし、持っていた些細な知識はすべて伝えた。ただ、それでは足りなかった。

少しだけ、私に与えられる食料が増えた。少しだけ、きれいな服を着ることができた。あの時の私は、ほんの少しだけ賢いただの子供だったから、素直によろこんだ。

それから数日後、私は村の人に森の奥地に連れていかれ、少ない食料とともに置き去りにされた。
この食べ物は神のものだから決して食べるなと。お前は神と一つになるのだと。

私はようやく気が付いた。これは、生贄だった。

今はもう覚えていないが、当時の、子供だった私には、相当ショックだったのだろう。泣いて、泣いて、疲れ切って眠ることを繰り返した。もうろうとした頭で飢えを感じ始めたころには、もう、動く気もなくなっていた。

どのくらい時間が経ったのか。
眠っているか、起きているかもわからなくなって、ああ、もう死ぬのだ。と思ったとき、それは現れた。

黒髪黒目の、私と同じくらいの背丈をした、子供だった。子供のように見えた。

その子は、私を見ると、表情の見えなかった目元をほんの少しひそめた。怒っているような、諦めているような、不思議な表情だった。

お腹がすいていたのかもしれない。その子は私とともに捧げられた食べ物を見ると、もう既にだいぶ傷んでいるだろうそれを手に取った。
「それ、かみさまの」
もうろうとした頭でかろうじて喉を震わせると、その子は少しだけ眉を下げて「そうですか」と戻した。
「あなた、かみさま?」
「…たぶん、違います。わたしは、神なんかじゃ」
迷ったすえに言った子供に、そう、とだけ答えて、私はゆっくりと目を閉じた。

消えかけた意識のなかで、「ごめんなさい」という、涙のにじんだ声が聞こえたような気がした。

それがたぶん、いちばんふるいきおく。

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