なんとなく
これのつづき
「ということがあったんですよ」
ふふ、と日本が微笑むと、なにやらアメリカは眉をひそめた。
「その子、赤毛で緑がかった瞳をしていなかったかい?」
「いえ、うちは暗い色ばかりなので…… ああでも、少し茶色がかった髪だったかもしれません」
どうかしましたか?首をかしげていると、彼にしては珍しく歯切れの悪い返答が。
「知ってるというか……いや、俺にも似たような心当たりがあるんだ。名乗ってくれない、不思議な人物のね」
「おや。お聞かせ、願えますか?」
うん。小さい頃のはなしなんだけど、と前置きしてから、彼はコーヒーをすすった。
───
ほら、俺は彼に育てられただろう?小さい頃は、それなりに夢見てたんだ。いまはそんなことないけどね。あ、これは本人には言っちゃだめだぞ。
それで、ちょうどそのくらいの頃。どこのだれかは忘れたけど、仲良くしてくれた青年がいたんだ。緑色の目をしてた。あ、俺が薄情ってことじゃないぞ。名乗ってくれなかったんだよ。だからいつも適当に呼んでたんだ。仲良くしてたっていったって、当時俺はそこまで近い人じゃなかったからね。たまに会うくらいで、名前を知らなくったって不便ではないし。Heでみんな分かってくれたさ。
その彼が言ったんだ。俺が「海の向こうに行ってみたい。きっとここよりすごいところだ」とか言ったときにね。言ったんだよ。「どこも同じで、ロクなもんじゃないぞ。大きくなったらわかるさ」ってね。
今思うと、大人が子供をなだめるときの常套句みたいなものだけどさ、その時の彼は、にこりともしてなかったんだ。顔は覚えてないけど、あの暗い、くすんだ緑色の目は忘れられないよ。普段は本当にやさしい人だったんだ。
俺はちょっと怖くてさ、ビビったのを知られたくなくて怒ったんだ。なんでそんなこというんだい?知らないくせに!って。そしたら彼はね、「君は彼らと同じだから」って。意味わからないだろう?それでまた怒って、向こうはジョークだよって笑って、ひとまず仲直り。でもそれからはあんまり合わなくなって、俺もいつの間にか忘れてたんだけどね。
─────
「くすんだ、緑の目?」
「そう、間違いない。はっきり覚えてるよ」
なにせあの時の俺は、緑の目がうらやましくて仕方なかったんだから。