※木の葉にバレンタインがある前提で行きます
※短めのを2人別々で書きました。導入→ハヤテ→ゲンマの順
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例えば、折り紙に文字を書いて折るのはどうだろう。小さな鶴や星型に、そうでなくとも細長い紙を小さく折りたためば、仕込みだってしやすくなるかもしれない。お守りにだってしやすくなる。
そんなことを考えつつ夕暮れの商店街を歩いていれば、ふわり、甘い香りが鼻をくすぐった。この里ではすこしめずらしくて、なんとなく懐かしい。
「チョコかあ……」
そういえば、そんなイベントもあったなあ。何年前か、木の葉でもバレンタインあるんだとびっくりした記憶がある。私は木の葉を何だと思っていたのだろうか。
考えてみたら、アカデミーでも、それ以前でも、ちゃんとだれかにあげたことないかもしれない。
「……あげるべきか?」
具体的には、お世話になってる人たちに。まあ少しは余裕があるし、感謝を伝えるいい機会でもあるし。
あまり重くならなければ、別に迷惑でもないだろう。いろいろと言い訳をして、大袋を手に取った。
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「というわけで、バレンタインです。どうぞ」
「というわけで……?」
小分けの小さなチョコをいくつか差し出すと、ハヤテさんは首をかしげながら受け取ってくれた。些細なもので申し訳ない。本命は彼女さんからでももらえばいい。確か、いたと思うし。
「お世話になっているので、よかったら」
「ああ、なるほど。ありがとうございます。では…」
チョコの乗った左手が一度ポケットの中に隠れて、もう一度目の前に差し出された。開かれた手の中には、紅色の和紙が鮮やかな、綺麗な包みが。え、なにこれ。高そう。
「金平糖です。よろしければ」
「ええ……」
これはちょっと。いつももらっている飴玉のおすそ分けとはわけが違うのではなかろうか。明らかにちょっといいお菓子だし、ハヤテさんに送った人に申し訳なくなってしまう。
「好みに合いませんでした?」
「あ、いえ、そうじゃなくて。いいのかな、と」
これをハヤテさんに送るなんて、なにか訳アリだろう。お礼だとか、なにか、そういうもの。部外者である私が受け取るのはさすがに躊躇われる。
差し出された手を前に、善意の断り方を考える。これはご自分でどうぞ?いっそのこと、誰にもらったんです?とでも聞いてみようか。
悶々としていると、不思議そうな声が降ってきた。
「ええと、値の張るものではありませんので、どうぞご遠慮なく」
「え、」
ちょっとまってくれ。その言い方って、もしかして。
「……買いました?」
「ええ、好きそうだなと思ったので」
「う、」
そんな飄々と言われてましても。
さっき自分で訳ありだろうと予想しただけに、なんとなく気恥ずかしい。こんなものを、わざわざ。いよいよ受け取らないわけには行かなくなって、おずおずと手を伸ばす。
いたたまれなさを隠したくて、うつむくついでに頭を下げた。
「あ、ありがとうございます……」
うれしいんだけれども。本来なら私があげるべき日だというのに。いつももらってばかりで。立つ瀬がないというか、なんというか。
「喜んでいただけたならよかった」
それでも、降ってきた言葉は予想よりずっと明るい。なんとか顔をあげると、彼はわずかに微笑んでいて。なんとなく、珍しさに申し訳なさを忘れてしまう。
「……大事に、食べます」
「ええ、そうしてください。私も、大事に食べますから」
悪気はもちろんないのだろうけれど。う、と一瞬言葉に詰まった。悔し紛れに、小さな緑色の星を差し出す。試作品で申し訳ないけれど、幸運と書いた紙を使っている。効果はまあ、1日2日だったらあるはずだ。
「ハヤテさん、運なさそうなので、あげます。で、」
来年は、もうちょっとちゃんとしたの渡しますから。そういうと、彼はまたたのしげに気に目を細めた。
「それは待ち遠しいですね」
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「ということで、チョコレートです」
「お、さんきゅ」
差し出された片手にバラバラと小袋を落とす。ゲンマさんはすぐにひとつをつまみあげ、ぺりりと開けて口に放り込んだ。
「ん、うま」
「まあ……市販なので……」
言っている間にも小袋を開ける手は止まらない。まだ食べるのかと見ていると、開いた袋からチョコをつまんで、目の前に差し出された。
「ほら」
「え、あの」
「うまいぞ。あー」
下ろされる気配のない手に、ため息をついて口を開ける。ころりと押し付けられたチョコレートは案の定甘くて、思わず頬が緩んだ。おいしい、おいしいけれど。いつもと変わらない気がするのは気のせいか。
不満そうな顔を読み取られたのか、ゲンマさんは眉根を寄せて笑った。
「心配しなくてもちゃんとお返ししてやるから。何がいい?一通り食えるよな?」
首を傾げて、一拍。
「いや·、えっと·····そういうつもりじゃ…… お世話になっているお礼みたいなもので」
「言わないとクソ不味くてクソ高い兵糧丸になるぞ」
「そ、れは」
兵糧丸は勘弁して欲しい。でも、欲しいものと言っても特に思い当たらないし…… 考えてみれば、あまり物欲がない気がする。強いて言うなら強さとか、みんなの身の安全とか、平和な世の中とか、そういう話になってしまいそうで。
「ほら、何がいい?」
「それが·····とくに·····」
じとっとした目と視線があう。言葉に詰まって慌てて逸らした。欲しいもの……欲しいもの……
「おかし、とか……?」
答えて、2人の視線がゲンマさんの手元に落ちた。そりゃそうだ、今食べたし。もう一個いるか?と差し出された包みを断って、眉根に皺を寄せた。欲しいもの、と言われましても。
「無欲だな」
「……別に、無欲では」
物欲がないだけで、私は強欲だと思う。生きてて欲しいし、死ぬかもしれない任務なんて行かないで欲しい。どうせなら、自分も忍者として動きたかった。待つより、待たせるほうが楽だから。
まあ、無理なんだけれども。
「じゃあ、今度どっかいった時に、お土産とかあったらください」
「あー……なるほど。わかった」
「……いいんですか?」
「まかせとけよ。ただし、変なもんでも変品不可だからな」
至極真面目な顔で言い放ったゲンマさんに、笑いが零れた。今の私じゃ遠いところなんてどうやっても買いに行けないし、話のきっかけにもなるかもしれないし。お土産って言われたら受け取りやすいっていうのもある。
それでは、と席を立ったところで、忘れ物に気がついた。
ポーチを漁って、空色の小さな星を取り出す。何かにつかってもらえないかと持ってきたもので、少しだけ幸運値があがる、はずだ。
「これ、数日なら運気あがると思います。よければ」
「お、さんきゅ。来月楽しみにしとけよ」
「いつでも大丈夫なんで、お土産、待ってますから」
軽く微笑むと、ゲンマさんは片手をひらひらと振って、先程より楽しげにチョコを手に取った。