・元忍
・大怪我をしたので忍者辞める
・親戚の洋食屋を継いだ
・酒飲み



「お、ゲンマー」

任務帰りの深夜の大通り。名前を呼ばれて振り返ると、見知った顔が片手を上げた。

「お勤めごくろーさん、長期?」

肯定の返事を返しつつ、ゲンマは立ち止まって男を待った。自分の数倍はゆったりとした歩調に合わせると、日常に戻ってくるような感覚がする。

「珍しいな、こんな時間に」
「アンコとしゃべってたら遅くなっちまった」

男が白い息を吐いてマフラーに顔を埋めた。ふわりとアルコールの匂いが漂って、凛とした空気に溶ける。なるほど、どうやら飲んできたらしい。それにしても、アンコか。それはそれは

「絡まれただろ」
「ご名答ー アイツ最近酒癖悪くなってないか?」
「お前の前だと顕著な気がするな」
「はー……信頼が厚い……飲み足りねえ……」

その言葉に、ゲンマはピタリと足を止めた。どうした?と振り返る彼に、重大報告を。

「俺、明日非番なんだよな」

ゆるりと目を細めて、男も真剣に口を開く。どうやら意図は伝わったらしい。

「……まじ?俺も明日は店閉める日」
「ちなみに腹も減ってる」
「俺の〆は団子だった。しょっぱいもん食べたい」

視線を合わせて頷きあった。ならばやることは決まっている。
おれんちでいい?という男の言葉に、ゲンマは一も二もなく頷いた。

小さな店のカウンター。促されて慣れたその席に腰を下ろすと、エプロンを雑に結びつつ、男が厨房の奥から顔を出す。

「どんくらい食える?」
「ラーメン大盛りと半チャーハン」
「一楽いけや腹ペコ野郎」

言いながらも狭い厨房で動く男は、もう何を作るか決めているらしい。手伝おうにも邪魔になるのは分かっているので、外套を脱いで大人しくしておく。明るい店内だと全身薄汚れているのがよく分かるが、まあ勘弁してもらおう。任務帰りはこんなもんだ。

ゲンマが一息ついたと同時に、男があ、と声を漏らした。

「シャワー浴びる?」
「……まじ?」
「大マジ。着替えも貸す」
「愛してるわ……」

きっしょ、と笑った男は、視線をを手元に落としたまま言い放った。

「10分以内な。遅れた場合は先に飲む」
「了解」

急ぎ足で席を立ったゲンマを見送って、男は袖をまくった。



カチャカチャと卵を溶く音に混ざって、2階から物音がした。どうやらゲンマが風呂から上がったらしい。ナイスタイミング、と口笛を吹いて、卵を流し入れて蓋をする。気に入っている酒と仕込んでいた浅漬けを取り出せば、こちらの準備は十分だ。

「すげえいいにおいする……」
「服わかった?」
「前に借りたヤツ使わせてもらった」
「全然いい。ほら、座れ座れ。食うぞー」

どん、とカウンターに丼を置く。つやつやと柔らかくひかるそれから、ふわりと白い湯気が立ち上った。

「おお、親子丼」
「そ、入ってんのは長ネギだけど」

半端な量残っちまって。口に合わなかったら悪いなと続ける彼は、言葉と裏腹に全く悪びれる様子がない。いいから食ってみろとでも言わんばかりの笑みを浮かべて、缶ビール片手にキッチンを出てきた。有難くビールを頂戴して、を合わせる。

「じゃ、いただきます」
「めしあがれー」

プシュ、と炭酸の抜ける音と共に冷えたビールを流し込んでから、湯気の立つ丼を手に取る。大きめに切られた肉を、とろけた卵が絡んだ白飯と共ににかき込んだ。ふわり、出汁の香りが鼻に抜ける。
はふ、と白い息をついて、ゲンマが唸った。

「ん〜〜〜、最っ高だな……」
「なにより」

堪えきれないというような笑みを浮かべ、男はどこにでもあるようなコップに日本酒を注いだ。苦笑したゲンマに、おちょこ出すのめんどいし、と言い訳を重ねる。

「長ネギ、美味いな……」
「風味変わるけどいいよなあ」
「お前は食わねえの?」
「んー、見てるだけで腹いっぱいなんだわ」

パリ、と音を響かせて漬物をかじって、澄んだ酒を一口。目の前のゲンマは、美味そうに熱い丼をかき込んでは、冷えたビールで流し込んでいる。

「あーー……幸せだ…………」

思わず、といったゲンマのつぶやきに、男も小さく頷いた。こいつらはほんと、美味そうに食べる。




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