「お前がユズか?」

山積みの書類の間から、射抜くような緑青の瞳に見つめられて、少したじろいだ。

「はい」

ふーん、と頬杖をついた女性──綱手様は、気だるげに手元の資料を見つめてさらに口を開く。

「札屋を名乗って忍具の販売、ナルトら同期との仲も概ね良し。三次試験前に同期らとDランク任務12件、木の葉崩しにて負傷、その際カブトと接触につき定期報告の義務、ねえ……」

「は、はい……」

離れたところに立つシズネ様をちらりと見れば、彼女はほんの少し目尻を下げた。
大丈夫、別に里を追い出されるようなことはしていないはず、というか里出れないはず。たぶん、わかんないけど。

「老耄共も、しょーもない例外は簡単に認めるんだな。まああのじじいが押し通したんだろうが…… なあ、札屋」

「はい」

「まあそう畏まるな。忍になりたいか?」

「……いえ」

「ほう?何故」

「確かに憧れていますが、わたしに務まるとも思えませんし。……札屋、楽しいので」

「札屋、ねえ。私はお前の札にも興味があるんだが……」

ああなるほど。ならばとポーチから複数種類の札を出して机に並べる。火影に隠すことなどないのだし、血文字もお守りも含めて。
ほう?と興味を示した彼女に、一番弱い火の札を燃やして見せる。マッチほどの火が燃えて消えた。いいぞ実演と火種用。これが一番売れる。

「このへんまでが中・上忍向けに一般的に販売しているもの、ここからは量産できないので、場合によります。火や水のなんかは遠征や長期任務とかに便利みたいです」

ひとつひとつ軽く説明していき、最後に例のお守りだ。

「これがお守りです。強さはモノにもよりますが…… シズネ様、私にクナイを投げていただけませんか?普通に、攻撃する気で」

「へ?わ、わたし?」

常に身に付けている自分用のお守りを外して、一番弱いもの一つを握り込む。少し離れて腕を広げれば、シズネ様はため息をついて、慣れたようにクナイを放った。

放たれたクナイは、私の肩に当たって、落ちた。多分急所を外してくれたんだと思う。そもそもなんともないのだが。

「え、」
「ほう?」

手を開くと、布に包んだお守りの斜め上、人に見立てれば肩のあたりに、――ぽっかりと穴が空いていた。

「とまあ、こういうものです。強度が弱すぎたり、防ぐ攻撃を指定できないので、実戦向きではないですね。あくまでお守り程度のものです」

最近研究をしているが、あまりうまくいかない。致命傷を防ぐ、だとか、自力で防げない攻撃のみを防ぐ、みたいな条件付けをすると効果が出なくなってしまうのと、そもそも実験がほぼ不可能だ。私が使うと効果が上がるという謎現象も不明だし。

そう考えてみると、ハヤテさんが上手いこと使えたのも、私が今生きているのも、結構な博打だったんだなとしみじみ思う。

「これは……売れるな。シズネ」
「ええ、お偉いさんが喉から手が出るほど欲しがりますね」

呆れたような困ったような二人に、ふと思い出すことがあった。強くて使えそうな札を並べて、お守りも複数添える。

「みかじめ料です。賄賂にでもお好きなように」

「……ありがたく受け取ろう」

綱手様の強気な瞳が、楽しげに弧を描いた。賭け事に使われる可能性が微レ存。まあいいですけどね。
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