くあ、とあくびをしつつ、シカマルは廊下を歩いていた。
突発的に開催された三次試験の予選もつい先ほど終わり、本戦までの一ヶ月、任務や修行場所の説明を受けるために、木の葉の下忍のみ残された。他国は予め上忍師に話が通っているそうだ。
どうやら受からなかった下忍達-----いのやチョウジはフリーでスリーマンセルを組んで簡単な任務にあたるらしい。一方、予選に通った面子は、調整を兼ねて修業期間とするそうだ。滞在する他国の忍びと条件をそろえるためだろう。試験は面倒だが、こればかりは合格してよかったとシカマルは思う。しかし、
「(なーんか嫌な予感がすんだよなあ…)」
足を進めながら、シカマルは眉をひそめた。
二次試験で戦った不気味な三人組、サスケになにかしていなかったか。アスマに一応報告はしたが、どうにも不安が残る。この火影邸もどこかぴりついた雰囲気を感じる。父に言ってもごまかされることは分かっていたので相談はしていないが。
ふと、予選を辞退した、ナルトが話しかけていたメガネの人物がいたことを思い出した。
「(薬師カブト…だよな。試験前にも話したが、どーにもうさんくせー。あのナルトの様子からして、二次試験中にも関わってきたんだろうが…)」
「…どうかしました?」
はあ、とシカマルがため息を着くと、すれ違いかけた月光ハヤテが無表情で声をかける。つい先ほどまで試験官をしていた彼は、これから火影室にでも行くのだろう。
「どこか怪我でも?」
「いや…」
何でもないと答えようとして、シカマルは口をつぐんだ。試験官をしていたということなら、あの薬師カブトの情報ももっているだろう。教えてくれるかは別の話だが、興味と懸念のほうが勝った。
「薬師カブト、って…誰すか?」
「……忍びの情報は、幾ら自国が相手でもそう漏らせませんね」
「そっすよね…あー、すんません。何でもないっす」
失礼します、と歩を進めたとき、後ろから声がかかった。
「奈良、シカマルくんですよね」
「…まあ、そっすけど」
「流石はシカクさんの息子ですね…、大丈夫、彼のことは我々におまかせください」
シカマルが目を瞬かせると、ハヤテは薄っすらと笑みを浮かべて言った。
「我々は強いですからね… 少なくとも、君よりは」
「はあ…」
そりゃあそうだろうと露骨に顔に出したシカマルに、ハヤテはいつになく強い瞳で言い切った。
「大丈夫です。まかせて」
ぱちり、とシカマルが目を瞬いた。普段けだるげなだけに、驚いている姿が子供らしくて、まるであの少女のようだとハヤテは思う。ふと廊下の先に目をやると、件の少女が歩いてくるところだった。おそらく試験が気になったのだろう。
彼女も、目の前の少年も、ほんの少しだけ似ているところがあるとこっそり笑った。
ひとまず自分は、薬師カブトについて調べなければいけない。彼らの不安を取り除くためにも。
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