「悪かったな」
「……え?」
「俺のミスだ。部下でもないただの子供に、無茶な指示を出した。」
「ちが、」
「違くねーよ」

こちらを見るまなざしは真剣だった。大人だ。どうしようもなく。

「里を守るのが忍びの仕事で、大人の役目だ。そのケガも、責任は一応、俺にあるからな」

悪かった、とゲンマさんはもう一度呟いた。ちがう、いや、言っていることは正しいんだろう。それでも。

「わたしは、生きてますし、指示をくれて、うれしかったです。なにか、できることがあるんだって」

隠し事もしていて、一人で突っ走って、危うく、カブトに私ですら知らない力を渡すところだった。この里が、主人公が不利になりかねない、未知の力だ。

「ゲンマさんは、謝る必要ないです。こんなケガも、どうってことないので」

私だって、ある程度は大人なつもりだ。ただの12歳の子供ではないことなんて、自分が一番知っている。
そもそも、持っていた知識を彼らに渡さない私が、全部わるいのだ。

「次はもうちょっと、うまく、やりますので。私は、だいじょうぶですから」

重荷になるつもりはない。身の丈に合わない希望を抱いているつもりもない。信じてもらえないだろうと思う。ただ、できるだけ良い方向に変えたいと、願うくらいはいいだろう。
大丈夫。今回のことは予想外だったけれど、私さえ連れ去らわれなければ、たいして悪い状況でもないはずだ。木の葉の敵に、原作にない力が渡らなければ。
ふー、と目を閉じて長く息を吐く。そうだ。私にしちゃあ上々じゃないか。誰かがケガをしたわけでもない。私だって治ればまだ動ける。大丈夫だ。

と、目の上に何かが乗った。乾いていて、ほんの少し温かい。
手だ。理解して肩の力をぬくと、暗い視界で、あきれたようなため息が聞こえた。
「お前な……」
また、深いため息。
何か、間違えたか。重荷になったのでは。迷惑を、かけたから。

「繰り返せ。いいな?」
「……は?」
「大丈夫じゃない」
「え」
なにを、急に。
「ほら、言え」
「え、いや、なにを」
「大丈夫じゃない」
「だいじょうぶ、じゃ」
「ない、だろ」
ぐ、と唇をかんだ。表情が読めない。なんだっていうんだ。
目に当てられた手はそのままに、沈黙が落ちる。
「だい、じょうぶじゃ、ない」
言ってしまうと、もう駄目だった。のどの奥があつい。
「大丈夫じゃ、ないです」
おう、と、やわらかい声が耳をゆらした。やめてほしい、今、そんなに優しい声を出さないで。
絞った喉の奥が苦しい。顔を隠したいのに、目に当てられた手はうつむくことを許さない。
手が生ぬるく濡れていくのがわかっているはずなのに、ゲンマさんは何も言わなかった。



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