その笑顔、薄桃色のどきどき



「ねぇ、キッド!」

「…てめェ、相変わらず口の利き方がなってねェな」

「あーもう!またそうやって怖い顔するんだから」

「あァ?」

「だからそれ!その顔だって。キッドは元が強面なんだからさ、もうちょっとニッコリ笑った方がいいよ」


わたしの呼び方ひとつで不機嫌になるこの目の前の強面男(しかもなんだか怒っててますます怖いんですけど)は、わたしの船長だ。
キラー以外はかしら、って呼んでるけど、なんて呼ぼうが個人の自由じゃない?
だからわたしは名前で呼びたいのに、すぐそうやって怒るんだから。

そのうち眉間にシワの跡がついちゃっても知らないよ。


「ほらー、笑って笑って」

「誰が笑うか」

「あ、でもあれだよ、キッドの笑顔ってなんか…企んでるみたいで怖いから」

「あァ?」

「だからほら、いつもの感じじゃなくてこうやってニッコリ笑わないと!」


そう言ってわたしが見本を見せてあげると、キッドはさらに眉間のシワを深くして。


「間抜けな顔してんじゃねェよ」


なんだかすごい呆れたような顔でこっちを見てきた。

ひどっ!せっかくのスマイルが間抜けとかって、ひどい!
しかもわたし、キッドのためを思って笑ったのに!


「ほんと失礼だなぁ、キッドって」

「だから名前で呼ぶんじゃねェ」


ぶつくさぶつくさ、そう言うキッドは、相変わらず不機嫌そうな顔。
わたしを心底イヤがっているような、そんな顔をしてる。


…してる、けど。

わたしは、知ってるんだ。


「ねぇキッド、今日は、ほんとに」

「…」

「ありがとう、ね」


面倒くさくてキライなはずのわたしを、ちゃんと見ててくれることも。
助けてくれるのも、キッドなんだ。


「てめェがバカみたいに丸腰であんなとこに立ってっからだろ」

「だからそれはごめんなさいって…」


数刻前の戦闘を思い出せば、途端に不甲斐ない自分に申し訳なさがいっぱい、こみ上げてきた。
隙をつかれ敵に囲まれてしまったわたしは、逆にこの状態なら自分1人が囮になってみんなが逃げられるかも…なんてひどく自意識過剰で消極的な気持ちをよぎらせてたの。
でもそのすぐ後、キッドはそんなわたしをするりと助けてくれて、そして大きな声で叱ってくれたんだ。



「てめェ!なんであんなところに突っ立ってたんだよ!」

「キッド…、ご、ごめんなさい」

「ったくふざけてんじゃねェよ」

「ごめん、なさい…」

「てめェの命、自分から粗末にすんじゃねェ」

これからまだ、その目で確かめるモンが沢山あんだろうが。




怒鳴るキッドの顔も声も、いつもよりも何倍も怖かったけど。
とても、心強かった、ハッとなった。
そうだ、わたし、まだまだキッドと一緒に果たしたいこと、沢山あるんだ!
そう気がついたら、なんだかすごく、嬉しくなった。


「また同じことしてみろ。承知しねェからな」


今、目の前には明らかに迷惑そうなキッドの顔(まだちょっと怒ってる?)。でもね、こんな仏頂面だってなんだって、キッドの顔を見ることができて、ほんとにわたしは幸せなんだ。
だからね、もう、あんなヘマはしない!わたし、もっと強くなる!


「まァ、学習能力のねェヤツに言っても無駄かもしれねェが」

「なっ、わたしそんなにバカじゃないよ」

「さっきは誰がどう見てもバカだったじゃねェか」

「…うっ」


って早速の決意もむなしくキッドに呆れられ、言葉に詰まってしまったわたしは、悔しくってむくれた顔で(可愛くない顔なのは百も承知!)、小さく彼を睨んでみた。

何よ何よ確かにバカじゃないのかと言われれば疑問は残るけど、でも別にキッドが思ってるほどわたし別にバカってわけでもないしこれでも自分では色々考えてたりしてるつもりだしだいたい自分のクルーにバカバカ言う船長なんて嫌いだし…あ、やっぱ嫌いじゃないけど失礼だよねそうだそうだうんぬんうんぬん…


なーんて、膨れた頬もそのままに、ぐるぐるぐるぐる考えていたら。


見つめていた先のキッドが。
不意に。


「…お前、変なカオしてんな」


そう言って、頬を緩めて、笑ったの。


それは、柔らかくて、すごく衝撃的で。
そしてとっても、優しかった。


「あっ、笑った!」

「は?」

「ね、もう1回笑ってみて?」


笑ってねェよふざけんな、と早口で告げたキッドは、そのままそっぽを向いた。
もしかして、キッド照れてる?
その少し赤い横顔から、目が離せないわたしは。

ベッドの中、包帯にくるまれながら、ニヤけちゃいながら、今日もやっぱりキッドが大好きだって思うのでした。





その笑顔、薄桃色のどきどき
(一生ついていくからね、キッド!)
(煩くしてねェで早く怪我直せ)







「ねぇ、じゃあ笑ってくれないなら、名前で呼ぶときにいちいち怒らないでくれない?」

「は?それどんな交換条件だよ」

「だって、名前呼ぶ度にキッドが怒ってたらさ、キッドの眉間にシワが刻まれちゃう!」

「うるせーな」

「あーあ、まだまだキッドとわたしの溝は深い!」

「だからうるせーな。深いままで構わねェよ」

「えー、キッドのケチー!」




「(…お前に名前呼ばれんのが気恥ずかしいとか、言えるかバカ)」








11.03.21

***

キッドは恥ずかしがり屋さんみたいであまり笑ってくれないようですが、笑顔って、やっぱり気持ちを明るくさせてくれますよね。
1日も早く、皆様の心からの笑顔がたくさんたくさん咲きますように。
できることを精一杯やりながら、ずっとずっと応援しています!




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