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だって愛だからさ


「知らぬまま育つ」ということは僕たちの日常にざらにある。たとえば、テレビが映る仕組み。「テレビには映像が映る」という事実までは誰もが知っていることだが、その中に「テレビが映る仕組み」を誰かに説明できる人が何人いるだろう。

だけどそれらはきちんと仕組みによって構造を成している。知れば説明ができるようになる。
それとは違って、欲情とか焦燥とか緊張とかそれ以上に心に湧き上がる「すき」って気持ちはどんな言葉でもっても誰にも、的確な解釈や説明をすることは不可能だ。論理的思考を使って紐解くことができない。ただただ自分の知るそのたった2音節を馬鹿になったかのように口にしてそれ以上の気持ちを押し付けてしまう。

『私だってこういうこと出来るんだよ』と。自分がこんなに理性的でいられなくなること、普段初心な君がベッドの上でそう言ってから初めて知った。


下半身の熱を本能のままにぶつけた後の気だるさ。シャワーを浴び直してさっぱりしたはずなのにそれだけはまだ僕とゆきの身体を襲っていた。

もう通販とかくだらない深夜番組しか映らないテレビを無駄につけてぼんやりと画面を見つめるゆきを後ろから抱きしめる形でベッドに横たわっている。やわらかいお尻とかお腹とか触っている時が1番幸せだ。


「どこが好きなのって聞かれるの」


噂が好きな忍たちは、告げ口されることも知らずにずけずけとそんな質問を彼女にぶつけていたみたいだ。女っ気のない僕が捕まえたゆきの真髄に興味がわくのも分からないでもない。


「すき、ってさ、言えるけどなぜとかどうとか説明はできないよね」

番組情報のボタンを押す。当たり障りのない番組説明と聞き覚えのない芸人の名前が映る。

「ゆきはそれにどう答えたの?」
「テンゾウだから、としか」


言いようが無かったよ。おそらく噂の好きな彼らにとって抽象的な意見は好まれない。だけどはぐらかすでもなく嫌がるでもなく、当たり前のようにそう答えたという。
あえて理由を形にするなら、僕たちは考え方が少しだけ似てる。そういうところが心地いいのかもしれない。それだけじゃないだろうけど。

「残念?」
少しだけ意地悪な顔でゆきは振り返った。
「別に」
答えるが、内心その通りだ。好きな人にはたくさん自慢して欲しかったりする。僕はきっとまだ幼い部分もある。

「テンゾウはどう答える?」
「んー」

言われてみれば難しい。

他人に恋愛感情を抱くメカニズムを、うまく説明できないまま大抵の人間は育つだろう。僕が生まれてからいつ、そんな機能を授かったのかもわからない。授かったのか、自動的な解放なのかそれすらもわからない。


「僕も、ゆきだから、かな」


残念?と聞くと、すこし。と返ってきた。
多分理由は一緒。素直に出しているか出していないか、違いはそれだけ。

今から30分だけ送料無料!ってテレビの中の人はさっきから何回言ってるんだろう。常に自動更新される30分枠に、お得感などこれっぽっちもない。そんなものをぼんやりと見ているのもそろそろしんどい。ゆきの頭上に裏側になって放られていたリモコンを手にとって赤いボタンを押す。話の途中で音声はぷつりと切れた。


「お風呂いこ」
「うん。ゆき」
「はい」
「好きだよ」
「あはは」
「なにそれ。返事は?」
「知ってるはずだよ」


好きという気持ちが説明できないことを、ちょっとだけ嬉しく思っている。なんでもわかってしまったらつまらないから。

「わかんない」

こんな伝え方でいいのかなって思うんだけど、的確な術を知らぬまま育ってしまったし。
結局馬鹿みたいにそう言って伝えるしかないんだ。
世の中にはそんな曖昧なものがあってもいいんだ。
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