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日曜日。ようやく車が止まったのは家を出て二時間後だった。

「どこだよ、ここ」

棗にとっては全く見慣れない場所だった。海の近くか、潮の匂いがする。
また、何メートルか先には大きな倉庫のようなものが見える。

「棗、ええか。ぜったいあたしから離れるんやないよ?」

馨は声を落として言う。棗は、そんな母親の真意がわからずにいた。
ゆっくりと倉庫に近づいて、二人は木や草の陰にかくれる。

とその時、ドンッと大きな爆発音が倉庫からしたかと思うと人が何人か出てくる。
みな、中高生という年頃で制服姿だ。
体には無数の傷痕…。普通ではない光景に思えた。

「いた…」

「は?」

馨が呟く。そして草陰から飛び出していき、一人の少女の腕を引っ張る。


「…馨、さん!?」

顔見知り、なのか。その少女は棗の母の名前を口にする。
その口調からは動揺しているのがわかる。

「とにかく、隠れて…」

少女がそう言って、こっちに向かって来る。
ガサリと音がたち、棗の前に二人の姿が現れる。

「…―!」

棗と目が合うと少女の顔が一瞬で変わる。泣きそうな、顔。
一方で棗は目を見開いて驚いていた。


「アンタのこと、いろいろ調べたよ。名前は佐倉蜜柑。
アリスは無効化と盗み。危険能力系として任務を行う。
あたしの憶測では、安積柚香と行平泉水の娘。
…前会った時の瞬間移動は、他人のアリスストーンを体に入れてたんやろう?
柚香の娘なら、瞬間移動のアリスとは相性がいいはずや」

「…なんでここにいるんですか」

「アンタに会うため。…あと会わせるため、かな」

そう言って、棗の方をチラリと見る。当の本人は意味がわからずにいた。
アリス。危険能力。瞬間移動。棗にとっては到底理解できる話ではなかった。



棗は、その少女に会ったのは初めてだった。でも、顔は知っていた。
数年前から夢に出てくる“あの少女”だった。
ただ、夢の中の彼女はいつでも笑っていたので、随分と印象が違っていたけれど。

「…なんで、こんなことするんですか」

そう言った少女の目からは大粒の涙がぽたぽたとこぼれ落ちていた。
棗の心は、ざわつく。抱きしめたいような衝動にかられた。


「アンタはどう思う?どうしたい?本当の気持ちを聞かせてほしい」

馨の静かな声が響く。

「…後悔してないと言えば、嘘になる。やけど、後戻りなんてできないんです」

少女は二人から背を向ける。

「もう行かんとペルソナに感づかれる。」

そう言った彼女は、中学生とは思えないような強い瞳をしていた。
棗は彼女を引き止めたかったが、その背中はそれを拒んでいるように見えた。
ただぼんやりと去りゆく背中を見つめるしかできず、やがて姿は見えなくなっていった。


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