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放課後昇降口をでると、雨が降っていた。
頭痛に雨降りと嫌なことが重なり、棗は一気に帰ることすら憂鬱に思う。
しかも、傘を持っていない。深くため息をつく。


「あっ、お兄ちゃん!」

そんな時、いいタイミングと言えるのか妹である葵が後ろから歩いてきた。

「傘ないの?いーよ、葵の傘に入れてあげる!」

「……」

こっちは何も言っていないのになにが“いーよ”なんだ、と棗は眉を上げる。
彼とはずいぶんと性格が違う葵は、明るく積極的で、友達も多い。
少々、自意識過剰なところが珠に傷であったが、本人は自覚はあるが気にしていない。

葵は二人の瞳と同じ、赤い傘を開くと歩きだす。
しばらくは無言で歩いていたが、葵は思い出したように「あっ」と声をあげる。

「そうそう。お兄ちゃんまた女の子フッたって本当?」

「…だからなんでそんな情報流れんだよ…」

「お兄ちゃん、二年でも人気なんだよぉ?葵の友達でも好きって子いるし。
お兄ちゃんは好きな人でもいるの?」

「…いねぇよ」

そんなもん、と付け加えるが、ふいに“あの少女”の顔が浮かぶ。
なぜだろう、と彼は笑いそうになる。

「葵、心配だよ」

「…何が」

「お兄ちゃんが女の子じゃなくて男の子に興味があるんじゃ、痛いっ!」

「………」

とんでもないことを、しかも少し楽しそうに言う葵を一発、棗は軽く殴る。
殴られた葵は反省の色は見せず、ぷうと頬を膨らます。

「せっかく心配してるのにぃ」

「余計なお世話。」


去年くらいまでは、棗も人並みに…いや、人並み以上に女の子と付き合っていた。
彼は来る者拒まずであったからだ。しかし大抵は長続きしなかった。

「棗は、本当は私のことなんか好きじゃないんでしょ」

別れる直前にいつも言われる言葉だった。返す言葉がなかった。その通りであったから。
そんな彼だったが、三年生になってからは誰とも付き合っていない。

“あの夢”を見るようになってから…―。






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