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(シリアス)


最初に思い付いたのは、自分が盗みのアリスを持っていると知ったとき。

自分のアリスを一番必要とするのは棗なんじゃないかと思ってた。
彼を苦しめているのは、他でもない彼自身の強すぎるアリス。
だったら、そんなアリスウチが盗ってしまえばいいと思った。

だけど、アリスを盗っても彼の体調が回復して、すべてが元通りになるというわけではない。
あれだけの重要な任務をさせられて、アリスがなくなったからと
学園から簡単に捨てられるとは到底思えなかった。
初等部校長は得体が知れない。
きっと、棗はもっと苦しむことになるだろうと思った。





のだっちのアリスで過去にタイムトリップし、再び思い浮かんだ。

"今"の棗からアリスを盗るのではなく"過去"の棗からアリスを盗ってしまえばいいのではないか、と。
学園に来る、ずっと前の棗から。





そして、実行を決意したのは昨日の夜のこと。

任務から帰った棗の体はボロボロだった。口の端からは血が滲み、頬には赤黒い痣。
泣きながら駆け寄ると、「大丈夫だから、泣くな」と髪を撫でられた。

本当は痛いくせに。
本当はつらいくせに。
本当は苦しいくせに。
本当は泣きたいくせに。

だから、決意した。これ以上、傷つけたくない。すべてから解放してあげたい。





特力に、タイムトリップのアリスを持つ後輩がいる。
その後輩のアリスの一部を昼間のうちにこっそりと盗った。
あとは自分のアリスと殿先輩の増幅のアリスがあれば簡単なことだ。

夜になって静かになった頃、棗がいる病室を訪ねる。
薬を飲んだのか、眠っている。
骨張った頬や首筋は月の光に照らされてぞっとするほど綺麗だ。
前髪を除けて、形のよい唇にそっと唇を落とす。

これが、最後のキス。

「―行ってきます」

静かに部屋を後にし、12、3年前にタイムトリップする。



小さな男の子と傍らにいる赤ん坊のアリスをウチは盗った。赤いアリスストーンが2つ…。
そして、彼の母親が死ぬことがないようにまた別の時空にタイムトリップした。


すべての計画を終えた時、さすがにへとへとになってしまい戻るとウチはすぐ眠りに落ちた。








翌日学校に行くと、当たり前のようにウチの隣の席はポカンと空いていて。
ルカぴょんはいるが、隣には彼の親友の姿はない。

なんだか、無性に笑いたくなった。こんなにも簡単に、みんなの中から棗という存在が消えた。

もう、会うことは二度とないだろう。仮にどこかで出会ったとしても棗はウチを知らない。
昨日まで隣にあった愛しい姿はない。話すことも、体温を感じることもキスをすることも、もうない。


「佐倉!?どうしたの?」

「あ…」

気づいたら涙が頬をつたっていた。涙が溢れ出して止まらない。
蛍は驚いた顔をしながらも心配そうにして、ぎゅっと抱きしめてくれる。


大好きな友達がいて大好きな親友がいて

…だけど棗はここにいない


それだけなのに。変わったのはただそれだけなのにどうしてこんなに違うんだろう。
ぽっかりと穴が空いたように胸が苦しい。
あんなにキラキラしてた景色も、色なんてないみたい。




世界は色をなくした

(どうか貴方は笑ってて)



09/08/17


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