(棗×蜜柑)


完全に、油断していた。

静まり返り、2人の呼吸と自分の心臓の音しかしない部屋で蜜柑は額に汗を滲ませる。

ジリジリと詰められる距離。
蜜柑の頬には彼の骨ばった大きな手がそっと添えられ、唇にキスが落とされる。

「なつめ...あの、ちょっと...」

「...ん?」

彼の行動を止めたい蜜柑だったが、優しい声に少し迷う。
抱きしめられ身動きもとれずにいると、背中でプツリと音が弾ける。服の上からブラのホックが外されたのだ。
そのままソファに押し倒されるが寸前で蜜柑は彼を力いっぱい押し退けた。

「あかんっ...!」

彼は少しだけ驚いたような顔をする。そして、困ったような切なそうな声で問う。

「いや、か?」

蜜柑は俯きがちにぶんぶんと頭を振る。
別に、するのが嫌なわけではない。初めてというわけではないし彼に対する愛情に変化があるわけでもない。けれどどうしても譲れないトコロがあるのだ。

「...やから」

「あ?なんて」

「だからっ...今日はブラとパンツの柄がバラバラやからっ!そやで...嫌や」

今日はみんなで棗の部屋に集まって遊ぶ予定だった。しかし他のみんなが何かしら用事があって結局二人になってしまったのだ。
二人きりになるとは...つまりそういう雰囲気になるとは思いもしていなかった蜜柑はその日とてつもなく適当な下着を身につけていた。
柄がバラバラ、どころではない。
レースがほつれヨレヨレなドット柄のブラと、ストライプ柄のヘソまである綿パンだ。

「ハッ、別に んなの気にしねーよ」

棗はおかしそうにくつくつと笑う。

「最後は全部脱がすんだから どんな下着だろうが関係ねーだろバーカ」

それもそうだろうか。
納得しかけた蜜柑だったが、その端的な言葉もどうかと思うのだけれど。

ひとしきり笑い終えた棗の目には意地悪な光が宿る。

「で?今日は何柄と何柄なわけ?」


2017/








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