※本誌のネタバレあります。読んでいない方はバックされることをオススメします。
大丈夫な方のみスクロールを。
















(泉水×柚香)

私は雪の中を歩いている。行く宛てがある訳でもなく、ただひたすら歩き続けてる。
これはデジャヴュ?こんなことが、前にもあった気がする。
私は決して立ち止まってはいけない。そう、だって…―――

「みかん……」

ポツリと呟いた名前。私に残された、唯一の希望。先生と私の大切な子供。
…手放す以外に守れる自信がなかった。“蜜柑のため”なんて母親らしく言ったって、結局は怖かっただけなのかもしれない。
目の前であの子が傷つく姿だけは見たくない。私はなんて卑怯なの。
足元がおぼつかず、ぬかるみに足を取られる。

「あっ…!」

気づいた時にはもう体は傾いていて、転ぶことは免れられそうにない。
私はぎゅっと目をつむる。冷たい雪に倒れて、死ぬのだっていいかもしれない。

「……?」

だけど、予想に反して体には冷たさも痛さも感じない。むしろ、温かくて。

「柚香、お前また泣いてるのかよ」

下からは、懐かしい声が聞こえてくる。もう長い間聞いていない懐かしくて、愛しくて、大好きな人の声。
―――え?

「せん、せ…い?」

おお、と当然というように返事をし、先生は起き上がる。
先生は私をかばって下敷きになってくれたのだ。
というか、というより、

「なんでここに…先生がいるの?」

「はぁ?なんだよ、それ」

「だって、」

先生は…死んじゃったじゃない。私は口をつぐむ。これは夢なのかも。
こんなふうに先生に触れて、話ができて。なら覚めたくない。

「じゃあ、なんで柚香だってそんな姿なんだよ」

「…え?」

私は下を向いて自分の体を見る。別に、おかしな姿ではない、と思う。
雪に溶け込みそうな白いコート。淡い茶色の長い髪。紛れも無く18歳の私だ。

「そんな泣き腫らした顔して…」

先生は私の顔にそっと触れる。骨張った大きい手。安心したら、ボロボロと涙が出てくる。
先生は苦笑して私の涙を拭う。ねぇ、先生、ごめんなさい。

「私、蜜柑を守れなくて……あの子を手放した…私バカだから、守り方、わからなく、て……」

途切れ途切れになる言葉。先生を見ていたら言葉がポロポロと剥がれるように落ちていった。
これは夢だから、先生は知ってくれているのかな?
私、赤ちゃん産んだんだよ。先生と私の子。名前は蜜柑。


「柚香、お前は頑張ったよ」

私を抱きしめて、背中を優しく撫でてくれる。

「私、頑張れた?できること本当にやりきれた?」

「ああ。お前は手放すことで蜜柑を守った。
…それからは学園を変えるために働いた。危険を犯してでも蜜柑を救い出そうとした。」

……あ…―――――

私の姿はいつの間にか、さっきと変わっていた。
女らしくない動きやすい服装。肩までの髪。……そうだ、私は今29歳。
デジャヴュじゃない、たしかに私が体験した過去だった。あれは私の記憶。
私がいる此処はたぶん、過去でも現在でもない。永遠に止まったままの場所。
そっか、私…………

「お前は頑張った。俺の分まで。だから、な、もう無理しなくていい。頑張らなくてもいい
俺の横で笑ってろ」

私の頭をポンポンとしながら先生は言う。どうしようもなく胸が苦しい。
今思い浮かぶのは救いきれなかったあの子のこと。私と先生の大切な…

「心配するな。蜜柑は俺とお前の子だからな、強いよ。これからもきっと強く生きていく
たくさんのいい仲間にも恵まれている。」

…うん。そう信じることしか、私にはもうできないみたい。
手を握ることも、抱きしめることもできない。できるのは見守るだけ。ごめん、ごめんね、蜜柑。

「…ね、先生。蜜柑は先生に似てた。明るくて笑顔が眩しくて、周りから好かれて…」

「どうしようもなくお節介で、鈍い。…柚香にそっくりだ」

「なによ、それ」

「似たもの親子ってこと」

八重歯を見せて先生はニカッと笑う。昔と変わらない大好きな先生。あの頃の姿のままの先生。
それがすこしせつない。だけど

「ね、私、先生と同じ歳だよ」

そう言って笑えば、先生は少しびっくりしたような顔をして私を見る。
ずっと憧れてた。教師と生徒じゃない自分達。大人と子供じゃない自分達。

「…綺麗になった、な」

「……本当?」

そんなふうに言われて嬉しくないはずがなくて。顔が熱い。
先生は私のあの頃より短くなった髪に触れ、そっと耳にかけてくれる。

「また伸ばせよ、髪」

「……うん」

「愛してる」

「…うん……私も」

抱きしめられた腕は、やっぱり大きくて。
同い年になったって、私はすっぽりと先生の腕に収まるくらい小さいんだなぁ、と思う。
自然に笑みを零せば、なんだよ、と先生はくぐもった声で言う。
こういうとこ、かわいいなぁと思う。
これからは側にいられるんだね。ずっとずっとずっと。


2nd time
(もう何にも邪魔されない二人)


10/11/14

柚香さん追悼小説です。
私は本誌を読んでいません。あくまでネタバレを読んじゃっただけだったりします←
柚香さん大好きだから悲しすぎてネタバレ読んだ直後に書いたヤツです゚(゚´Д`゚)゚

それから謝罪になりますが、年齢やら間違ってるかもしれません。
一応は漫画を調べて時間軸考えて計算やらしたのですが自信がありません。
なまあたたかい目で受け流していただければ嬉しいです。








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