(蜜柑→棗) 今日こそは、言おう。そうウチは心に決めていた。 中等部に入って、ますます棗は女の子に人気になって。 そりゃあもう、女の子たちは初等部の頃とはアプローチの仕方が違う。同い年ばかりか先輩だっている。 だから、伝えないと。ウチのこの気持ちを。 コンコンとドアをノックする。ドアも壁もピカピカで綺麗なのはスペシャルである棗の部屋だ。 「…お前か」 「うん。あのな、棗。ちょっと話したいんやけど、ええ?…忙しい?」 別に忙しくない、といつも通りな声で答えると、ウチを部屋の中に入れてくれる。 大きくて殺風景な部屋。必要最低限の物しかなくて生活感があまりない。 ウチの部屋とは大違いや。…て、今はそんなのどうでもよくて。 「あのな、あの……」 視線が突き刺さる。そ、そんなじっと見られても…。変な汗をかいてきた。 「えーと、その、な…」 ウチは大丈夫やろうか?ほら、たった二文字言えばええんや!えーとえーと、…あー、駄目や! 「なんかゲームでもしよかっ!」 「…はぁ?」 ごもっともな反応。おかしすぎるとウチやって思う。不審がられても仕方ない。 でも、ほら、リラックスできていつものウチが戻って来るかもしれへんし! 「し、しりとりとかどう?ウチからな、アリ“ス”!」 「…ス“ミ”」 「ミカ“ン”…あ……ごめん、…続かへんな、それにつまらんよな…」 しゅんとなると、棗がふっと笑う。これは…呆れられたんかな?そう思っていたら、棗がウチの頭にポンと手の平を置く。 「ばーか」 わしゃわしゃと髪を撫でられる。小さい子供にするみたいに。犬にするみたいに。 それでもウチは嬉しかったり。こういう時の棗の表情はすごく優しくてドキドキする。 棗は立ち上がると冷蔵庫の前で屈む。 スペシャルの部屋には小さめの冷蔵庫が置いてあるのだ。 「なんか食べるか?」 中には水やプリン、ゼリーなんかが入っていたりする。 後の二つは(予想できるだろうけど)棗が自分で入れたんじゃない。 ウチが宝の持ち腐れや!と行って冷蔵庫に無理矢理入れたものだ。 「や、えと、水でいい……」 今は食べ物は喉に通りそうにない。代わりに緊張で喉がカラカラになっている。 あ、そう、と意外そうな顔をして棗はコップに水を入れて出してくれた。 ごくごくごく。飲み干して空になったコップを置くと同時に声を搾り出す。 「あのな、唐突やけど…おかしいって思ったらごめん。」 「…なんだよ」 「あの、えっと、ウチ、棗のことが……その、実は……す、すす、」 す、す、すす、すす、す……ああ!あかん!! 何回も頭の中でリハーサルしてきたのに本番では何の役にもたたない。 「…ごめん、忘れて。何でもない」 それだけ言ってウチは立ち上がる。やっぱり無理や。 「…帰るのか?」 「うん…ごめんな、突然……」 部屋から出るとため息。ヘタヘタとその場に座り込む。 なんでこんな時に限ってウチは勇気が出えへんの?気持ちを伝えたいだけやのに。 意地悪で、嫌味で、愛想なくて。だけど本当は誰よりも苦しんで頑張ってきた。 だからかな。厳しいけど、本当はすごく優しい。 棗がいたからウチはここまでやってこれたんや。その強さにウチはどれだけ助けられたか。 だから、この気持ち知ってほしい。 棗のことが好きな女の子はたくさんいる。 だけど、ウチは誰にも負けへん。棗が好きっていうこの気持ちだけは絶対に。 「棗っ!」 えーい!とドアを開ける。顔は見えないように少しの隙間を開けただけで。 部屋の中からは、キイ、と椅子が回る音がする。 「あ、あの、ウチ…棗が……す、す、すす、す」 ほら、がんばれ蜜柑…! 「すすすす、す、…すき!好きや…大好きや……!」 言った…!閉じていた目をそっと開けると目の前に棗がいてびっくりする。 「あ、う…」 顔が熱い。湯気がでそう。たぶん顔は真っ赤や。 言ったはいいけど返事聞くの…怖い。 「……やっとかよ」 「…え?」 ドアノブにかかっていたウチの手を棗は掴んできたかと思うと、そのまま引っ張られて棗の胸に倒れかかってしまう。 肩の辺りに腕が回ってきて…動けない。 「言うの、おせぇよ」 耳元に棗の低い声が響く。 「…えっと?」 それはいったいどういう意味?ウチは馬鹿やからちゃんと言ってくれなわからへん。 「だから、俺はお前が好きだよ、昔っから」 「…ほんまに?今も?」 「そうだよ。…お前がそう言うの待ってた。」 ほんまにほんまにほんま?なんてしつこく言うと、呆れたように拗ねたように本当だ馬鹿という言葉が降ってくる。 ああ、どうしよう、嬉しくて涙が出てきて止まらない。 「すき、ウチやってずっと棗がすき…だいすき。…やっと言えた…」 大好きって気持ちも溢れ出したら止まらない。 恥ずかしいくらい、みっともなくウチはボロボロ泣いてしまったけど、棗は笑わなかった。 ずっと言いたくて言えなくて。やっと言えたこの気持ち。 (すすすす、すき、だあいすき!) 10/10/16 ボカロ(鏡音リン)の「すすすす、すき、だあいすき」という曲がすごく可愛くて その曲の歌詞をベースにしてなつみかんで書いてみました。 タイトルは浮かばず、まんまつけてしまいましたorz |