(颯×蛍) 最初に会った時、コイツは馬鹿だな、と思った。 隠しきれない馬鹿の臭いがプンプンと漂っていた。 「今井蛍ー、明日ヒマか?」 「…ヒマじゃない」 コイツには関わらないに越したことはない。そう思っていた。 彼ー松平颯は、危力系で喧嘩っ早くて、すぐに問題を起こしかねない。 それに、馬鹿は蜜柑一人で十分じゃない。 …あぁ、でも最近あの子、私の手から少し離れたんだった。今だって棗君といるに違いない。 「えー…なんかあんのか?」 「あいにく、明日は部屋で昼寝する用事があるの。」 「ふーん、そっか。………て、それ用事じゃねぇじゃん!」 気づくの遅。彼は手でよくわからないジェスチャーをしながら、あー、とか、うー、とかいっている。 「だったらさぁ、なんか食いに行こうぜ」 「食いに……?」 「そーそー。セントラルタウンに新しい店できたじゃ」 「行く。」 話を遮って思わず私は声をあげてしまった。 彼は驚いた顔をして赤くなったあと、ニッと笑う。…百面相。ああ、飽きない。 「うし、んじゃ、明日の10時にバス停な!わ、忘れんなよ、いいなっ!」 私が気を変えないうちに、と彼は早口にそう言うと、鼻歌を歌いながら元来た道を戻っていった。 しまった。行くと言ってしまった。 …だって、しょうがないじゃない。新しくできた店は魚介類の料理がメインらしいのだ。 魚介類に目のない私は行きたいと思っていたところなんだから。 それに馬鹿と言えど、年上なんだし、とうぜん奢りじゃない。 「………」 だけど、本当はわかっている。本当に関わりたくなかったら、 どんな誘いにだって乗らない。 ひたすら無視をする。 「馬鹿は私も、か」 フと口元に笑みがこぼれる。 馬鹿は、嫌いじゃない。そうよ、馬鹿につくづく弱いのよ、私は。 10/09/11 |