(棗×蜜柑)


「なぁ、棗。幸せってこういうことを言うんかなぁ?」

俺のベッドを占領し、安心しきったように寝転がった蜜柑は言う。

「…また突拍子もないことを…」

ため息をつきながら言うと、何よそれ、と蜜柑は予想通りの反応を見せる。

「言っとくけど、ウチは今真剣に話をしてるんよ?」

「はいはい、わかりました」

読んでいた漫画から目を離し蜜柑を見ると、彼女はニッと笑って手招きする。

「……」

「…ちょっと棗、見えてる?こっち来てぇや」

(こっちと言われても)

そんな無防備な状態でよく言う。

「まぁまぁ。ここに座って」

言われたままにベッドに座ってみると、後ろからフワリと抱き着かれる。
ほのかなシャンプーの香りと女特有な柔らかい体。
こんなことは言いたくないけど、男ならよからぬ事を考えないはずがない。

「えへへ、いつもと逆。ウチ、棗とこうやってくっついてるの好き。
…まぁ、ドキドキもするけど…大切な人が当たり前のように側にいるって実はすごい奇跡みたいな事で幸せなんじゃないかなぁって」

ウチはそう思うんや、と蜜柑は照れ臭そうに笑う。体に回された彼女の体はあまりに小さい。
自分が守って、一生手放したくないと思う。

「幸せ、ね」

「棗はどう?幸せ?」

「…かもな」

少しはぐらかすような言い方になってしまったが、何年もの間同じ時を過ごしてきた彼女にはきっと伝わっているだろう。
"幸せだ"、と。
実を言えば、蜜柑に初めて好きだと言われたその時、自分は幸せなのかもしれない、
とか柄にもないことを考えたりしたことは教えるつもりはない。

「で?」

「ん?」

「これは誘ってるんデスカ?」

「………」

鈍いので直球で言ってやろうと思ったが、それより早く蜜柑はボッと顔を真っ赤にさせる。

「アホかっ!こんな真っ昼間から何考えてんねん!!」

昼間でなければいいのかよ、とボソリと問えば案の定、ものすごいスピードで枕が飛んでくる。




それはシアワセというらしい

(当たり前に、君が隣で笑ってること)

10/08/27








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