東城 歩
私の一日は若に始まり若に終わる。若に尽くすことが私の役目でありそれは生き甲斐と言っても過言ではない。というわけで、今日も私は若のために身を尽くすのだ。


「…東城」

「あ、若!朝のお稽古ご苦労様でした」

「ああ…いや、それよりも僕の部屋で何をやっている」


タオルを首にかけた稽古着の若は何とも勇ましい。しかし汗で湿った髪は何とも女の子らしかった。
その女の子な若に私はプレゼントをと、ゴスロリ服を用意したのだ。まあ、こっそりと忍ばせる前に、今こうして見つかってしまったわけだけど。


「若、今日は早かったですね」

「東城…またお前は」


若は私の手元のゴスロリ服に気が付くと静かにバズーカを構えた。


「わ、若!いつのまにそんな「死ね」



爆破される



誤解のないように言っておくが、これは嫌がらせではない。若の女らしさを一層引き出すための、私なりの手助けだ。そしてゴスロリなのは私の趣味だ。いや、絶対似合うから、かわいいから、若大好きだから。いつか着てくれる日を、この東城歩、信じてます。負けません。

妙殿とのこと、合コン、ゴスロリ服、様々なことを重ねて、若は徐々に変わってきている。無意識でもいい、男とされた若に仕えてきた自分だからこそ、若の変化が嬉しかった。女としての幸せを と願い今日もゴスロリ服を買いに行こうと誓った。もっとフリフリがあるやつがいい。













爆破された衝撃で、フリフリな花畑をバックに若とタンゴを踊る自分を見た。なんとも現実感がない。しばらく落ちていたのだろう、目が覚めると若の姿が見えなくなっていた。どこに行ったのだろう。ああ見失ってしまった。ああ何たる失態。柳生家の屋敷は大きい。ああ失態。若、いったいどこに!若ァァァ!!私を置いていかないでェェ!

「…若なら書庫だぞ」

まるで私の心の叫びを聞いていたかのように言い放ったのは北大路だった。いつからそこにいた。私は一つ咳払いをして礼を言った。北大路は何か言いたげな呆れた顔をしていたが私には気にならない。私が気になるのは若だけなのだ。


書庫には文字通り上から下まで読み物がつみこまれている。若はちょうど棚から本を取ろうとしていたのだろう。私が後ろから見つけた時、若の手が棚へとまっすぐ伸びていた。

若、

呼び掛けようとして止めた。なぜなら若の姿に感動してしまったのだ。
足先だけ、背伸びして立つ若。そして手を上に伸ばし指先で必死に本を掴もうとする若。

なんとも愛らしい…!

届きそうで届かない、静かに必死な若の姿に思わず涙が出そうだ。私なら簡単に手が届く。しかしがんばれ、がんばれ、そう思ってしまうのだ。ああ若、本当にかわいい。


ついに若はジャンプまでし始めた。か、かわいい…!涙を堪えてその様子をそっと見守る。言っておくが、変態とか、私の辞書にはない!若、麗しの若ァァ!


「うわっ…!」

「!」


バランスを崩したらしい。そのせいで若の頭上へと本が落下する。このままだったら若へと直撃、無意識に私は押し倒した。ドシャという音のあと、パサっと頭に衝撃がきて一冊の本が落ちた。


「若ァ!!大丈夫でございますか!」

「あ、ああ…東城か」


若は手を頭にあてている。しかしどこにも怪我はないようだ。安堵感の後、若を危険に晒した本に怒りが沸々とわく。「こんの本めェ!!若のかわいらしい姿を見せてくれたことは感謝するが傷つけようとは何事だァ!おらぁぁ!」と叫ぶ寸前、ハッと気付いた。

若と、私の距離。


これではまるで私が襲っているようだ。近い、私こそなんて若にご無礼を!早くおりなければ!しかし近い!


「…東城?」


固まる私に若が呼び掛ける。その小さな唇がすぐそばに。若、また綺麗になりましたね。近い距離で、若を見つめてしまう。
このまま本当に、女性として恋人ができて結婚する日も近いのではないだろうか。ずっと、小さな頃からそばにいた若。本当は泣き虫で、強がりで、だけど誰よりも純真で綺麗で。ずっと私が見守ってきた、この近い距離で。

今ここにいる若が、いつか誰かのものになるのだろうか。こんなに近いのに。私ではない誰かのものに。


「………若」


眼前の唇が、小さくも魅力的である。若の頬にそっと手を添えた。思えば、若にこうやって触れるのは初めてかもしれない。なんて柔らかい…


「ゴブウウゥゥ!!」


若の無言の鉄拳をくらってふっとんだ。さすが若、頭くらくらします痛いです。
かろうじて意識を保った私は若へと顔を向けた。視界はぼんやりとしている。だからか、若の顔が赤く見えた気がした。薄れゆく意識の中、殴られた頬にゆっくり手あてる。思った以上に熱い頬には苦笑するしかあるまい。




定位置での攻防
いっそ私のものになりませんか







080705





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