いい年してふらふらふわふわとどうしようもない大人だ、と自覚はある。もっとちゃんとしろだの、いい加減落ち着けだの、もっともなことを言われれば返す言葉もない。しかし自分にはどうしても曲げられないものがあって、それは己の生き方そのものでもある。
私はわかっていますから
瞼を閉じて静かにそう言った女の顔はひどく落ち着いていた。あれ、こいついくつだっけ と一瞬目を丸くしたのを覚えている。何をわかっているのか、しかし彼女のその言葉に気持ちはざわめく。すべてを許されるような忘れるような置いていけるような、そんな気持ちが体を巡る。誤魔化すようにふっと笑えば、一転、彼女はムッと口を作った。子供のような表情に、そうかまだガキだったなと思い出して、今度こそ自然に顔が緩んだ。
やはり、ふらふらと歩いてはふわふわと流れて、それが性に合っている。そうでなければならない。そうでなければ、
「銀さん、いつまで寝てるんですか。縁側、冷えますよ」
心地良い声に導かれ、顔だけ女の方へと向ける。
「まだ一応怪我人でしょう」
「…まァな」
一応は余計だが何も言うまい。そして女のほうは当然の如く何も言わない。わかっているからか。
穏やかなこの空間に、居心地の良さを感じて欠伸が出た。「ほら、きちんと起きて下さい」近くで呆れたような声を出す。例えば今、手を伸ばしたら、彼女は受け入れるのだろうか。引き寄せて、唇を重ねたら、彼女の頬が赤くなる様を見られるのだろうか。
「銀さん…?」
寝ていたわけでもないのに、夢見心地。恐ろしい。
「…ちょっと…いきなり笑わないで下さい気持ち悪い」
「いやいや、笑ってねェから」
ゆっくりと、一人で体を起こした。
幸せとは程遠い
だけどまあ、随分と居心地良さそうに自分は腰をおろしているのだろう。
「…饅頭食いてェな」
「私はハーゲンダッツが食べたいわ」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
小話(まとまらず)
20120923