独特な雰囲気に目を伏せる。何十と響く音がその雰囲気を濃くし、静かに心を蝕んでいくようだった。
どこの隊だったか、どんな顔だったか、それだけで、それしか知らない。それだけでも局長は泣くのだ。俺は泣けない。副長も泣かない。だがそれ以上の、例えば芯まで知った相手ならどうだろう。そろそろ覚悟をと医者に言われた時、情けなく顔が歪まなかったのは副長だけだった。
ようやく式も一段落ついたところで、縁側の端から知った匂いが流れてきた。副長の煙草だ。たどると、いつもと変わらぬ横顔があった。
「副長」
「おう、山崎か」
「副長、煙草そろそろやめた方がいいんじゃないですか」
「は、今さら無理だろ」
「早死に、しますよ」
「……さァな」
副長はちらりとこちらを見ると、すぐに目線を庭に戻した。どの辺りを見ているのか見当もつかない。ただ吐かれた煙は遠くに流れていった。俺はまた目を伏せる。
(もしも、)
生とか死とか、自分たちにはどうしようもなく及ばないところで、決まっているのなら。もしも、神様とやらがいるのなら。
散々汚した手を忘れたわけではない。ひどく罪深い考えと思う。思うからこれは、
「山崎」
「はい」
「アイツは」
「…変わりありません」
「そうか」
これは、覚悟の出来ない俺の、都合のいいエゴだろうか。
山崎、覚えてるか、あの医者の。
低い声が耳に染み入った。
「覚悟」
そんなもん、そう簡単に出来るわけねェよな
吐かれるように出た副長の言葉に、驚く。
「…意外です副長」
「何がだよ」
「泣く子も黙る真選組の、鬼の副長ともあろうお方が」
「何が言いたい」
副長はそう聞いておきながら、見透かした目を向けるので、一言イイエと零す。
「山崎、あいつは泣いてたか」
「いえ、俺の知る限りでは」
「そうか、俺の知る限りでもそうだ」
これは、この声音は、寂しさか。それともあきらめか。
副長が目を伏せて言う。
「オレは、オレの覚悟で手いっぱいなんだよ」
「は…」
副長は伏せた目を空にあげた。それだけだ、と遠くを見て続ける。
「そ、れは」
さすが鬼の副長。と言うべきか。いや
「結局、どいつもこいつも自分勝手なんですかね」
「ここはそんな連中ばっかだろ、それこそ」
「ええ、そうですね」
そんな奴らの集団で、それでまとまっていられるのはきっと
「山崎」
「はい」
「近藤さんにタオルでも持っていってやれ」
「はい」
きっと
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わあ中途半端(いつものこと)
沖田視点で続けたい。…続けられるといいな
100219