何を望むわけでもない。恐れたものはすべてなくした。なくしたから恐いのか、なくしたから求めるのか。いつだって想いは変わらなかった。いつだって感情は矛盾していた。


「銀時」
「あァ?」
「おんしば白夜叉っち誰かが呼びよったき」
「……」
「アッハッハ」
「そこ笑うとこかフツー」
「普通は知らんがわしゃおんしを白夜叉ち呼ぶ気はせんのう」
「あ、そう」
「ここじゃみんな獣じゃきに」
「……」
「アッハッハ」
「だからそこ笑うとこか」


坂本は屋根に寝そべって空を見上げていた。気付けばいつもいつもこいつは上を見ている。宙を見ている。たなびく風が、二人の髪を揺らした。どうせならまとわりつく血なまぐささをさらっていけばいいのに と銀時は吹く風の気持ちよさに目を閉じた。


「確かにおんしは強い」


坂本の声がじわりと体に響く。
だけど恐れるものはもっと違うところにあるはずじゃ。おんしはそれをわかっちょー気がして


「…それ、買い被りじゃねーの?」
「アッハッハッハ」


それよりも俺はオメーのほうが計り知れねェな。そう呟くと坂本は今度は小さく笑った。


「ここが総てだったらちっぽけな世界じゃきに。そんなことはありゃせん」
「そうか」
「囚われるのも勿体ないと思うんじゃ、のう金時?」
「誰が金時だバカヤロー」


辺りの静けさが束の間の休息を示していた。そうか、お前は囚われるものなんかないのか。だからきっと世界がでかく感じるんだ。
いや、俺だって囚われてるつもりはない。幻想に囚われてるつもりはない。生きてるんだから、生きたいから。生きて護り抜きたいから。

だけど、一体なにを?


「……」
「なあ銀時よ」
「…あ?」
「わしゃおんしと出会えてよかった」
「そーか」
「何考えとるかーわからん」
「そりゃ、お互い様だろ」
「そうじゃのー」
「まあでも…白夜叉なんて呼ばれてもしかたねーよなァ」


両腕を頭に組み、空を仰いだ。ぽつりと言った言葉は漂い消えていく。本当は護れてなんかいないのに、だけど必死で、もしかしたら血を求めているのかもしれないなんて考えて自分がおぞましくなる。そんなの、狂っている。獣。


「おんしの強さは綺麗じゃ」
「な…」
「綺麗だから、恐れられるんじゃき」


そんな、きれいごとを。坂本を見ると静かに笑っていた。ずっと見上げていたはずの目が少し伏られていた。坂本はそのままぽつりと呟く。

だから 哀しい

その言葉もやはり漂い消えていった。ここは戦場、今は戦争。戦うしかないのはわかっている。だけどだからこそこういうものは捨ててはならない、それもわかっている。




アイビー


なくしたものが大きすぎた。しつこい執着心が、恐ろしく強かった。世界の終わりを見たあの日、総てを抱えて生きていく覚悟を決めたはずだ。だけど世界は広いらしい。だったら望むものはきっとたくさんある。
こいつはでっけーなァと思ったと同時におんしはでかいのと言われてつい笑ってしまった。(笑ったの、久しぶりだ)












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なんかいろいろ挫折



080902





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