彼に迷いはなかった。あるわけがない、彼の大切な人を殺そうとしたのだから。しかしこちらも謝るつもりはない。確かに自分は大将を信じた、忠誠を誓った。今の世を憂いた。感銘を受けたのだ。



全身が悲鳴をあげていた。痛い、痛い、痛い、

しかしどこか冷静な自分もいる。

迷いもなく斬り続ける彼は、そうだった、一番隊隊長。


纏う空気が人との馴れ合いを求めていないのは常々から。色濃くなったように、いや、剥がれたように今の彼は恐ろしい。しかしそうか、これが、本物の彼。


一つ咳が出たところで生ぬるい液体が口の周りを舐めるように動く。斬られたであろう箇所からも液体が流れ続けているのだ、もうすぐ自分は死ぬ。

彼と対峙した時からそれはわかっていた。それでも自分は先生についていくと決めた。先生は大丈夫だろうか。ぼんやりとした頭で考えた。副長が、土方さんが駆けつけたのは見た。それから何かと縁がある万事屋も。果たして彼らに伊藤先生は勝てるのだろうか。自分は死んでいくからわからない。だけど真選組を思って動いたのは確かだ。自分も彼も思い尽くすものは同じなはずだ。世を憂い真選組を居場所とし大事とした。先生が攘夷志士と繋がりがあったことは知っていた。裏切りと言われても構わない。だけど同じなんだ。自分も彼も同じと思いたい。そうすれば本望だ。昨日笑い合った仲間に斬られて死ぬことだって。彼は決して謝らないだろう。自分も謝らない。それでいいと思う。


辺りがいやに静かになっていた。ああ、きっと沖田隊長が皆を殺してしまったのだろう。真っ白な視界で思う。見えなくてもそう理解した。先生すいません、沖田さんを粛清出来ませんでした。本気の彼に適う人などいませんでした。先生、彼を、彼らを見くびりすぎないで下さいよ。自分は死んでいきますけど、貴方は生きて意志を、正義を貫いて下さい。






伊東派隊士A


動乱編のあの「死んじまいなァ」のシーンで妄想
080526





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