ガタン、とベランダ付近で音がする。こんばんみ〜という声がする。
気のせいでありますようにと開けた窓の外には、うざい長髪がいた。

「よッ」

この男には、国の将来云々よりもまず、世間の常識を学んでほしい。



「どうした幾松殿、眠そうな顔をして」
「そりゃ眠いだろ、今何時だと思ってるんだよ。アンタに起こされたんだよ私は」
「そうか、それはすまなかったな。散歩がてら通ってみたんだが」
「散歩…」

夜中に屋根の上を歩くのは、むしろ不審者だと思うんだが。しかしめんどくさいので口にはしない。かわりにあくびが出そうになってそれを噛みしめる。この男をやり過ごすのが先だ。さっさと散歩に戻れ、そして不審者として通報されろ。


「幾松殿」
「…なんだ」
「秋の夜空は綺麗と思わないか」
「……」


のんきに切り出された話に腹が立つのも仕方がない。「幾松殿も見てみるといい。秋の星のなんと美しいことか。見惚れてしまうぞ」
何なんだお前、ロマンチストか。


ベランダの前に立つ男は去る素振りを見せない。仕方なく、手摺りを挟んで奴の目線を追うと、たくさんの星があった。重たい瞼を持ち上げてそれを眺める。なるほど、確かに星は綺麗だった。


「幾松殿」
「なーに?」
「いや…綺麗だな」
「そうだね」
「地球は綺麗だ」
「…ああ」


どうしてだろうな
男がポツリと呟く。


「幾松殿、聞こえるか」
「何が」
「迫る音」


大きく重く、地球が震動して体に響く。いまにもぶつかってきそうな、そんな迫力のある音だ。


「ぐおーんってな」
「アンタ、大丈夫か」
「大丈夫じゃない、このままでは危険だ。やはりこの国はこのままではだめになる」
「……」


だめなのはお前だ。大丈夫じゃないのはお前だ。
静かな静かな秋の夜長、寒さが少しだけ体に堪えた。


「幾松殿、」
「何ですか」
「俺はこの危機を救ってみせるぞ」
「…あっそ」


勝手にすればいい。
いや、とっくに勝手にしてるかこの男。ため息が出そうになって男の顔を覗く。真剣な顔。いつだってこいつは真剣だ。何だって全力投球だ。
バカか。


「…バカか」
「バカじゃない桂だ」
「覚悟なんてとっくに決めているだろうに」
「覚悟?」
「ああ」
「…そうだな。すべてを守るに至らなくとも幾松殿を」
「バカか」


バカ。そういう覚悟じゃないっつーの。


「幾松殿、」
「……何だ」
「寒い」
「……」


ぶるっと身体を震わせた男に向かって遠慮なく一つ、大きなあくびをした。勝手にやってろ。



さて、お茶でもしましょうか




081104





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