昼下がり
突然の訪問者はさも当然のように志村家の縁側に腰を掛けた。
真っ黒な隊服を着ているのをみれば仕事中なのだろう。見廻り中じゃないんですか?と聞けば、あァと答えた。
「休憩だ」
「あら、人の家で休憩とは随分といいご身分ですね」
「……」
にっこり笑顔で微笑みながら妙は土方の隣に座る。厭味を零したものの微かに甘くあたたかいものを胸に感じる。そのまま「どうされたんですか?」と聞いた。
「休憩なんて嘘でしょう」
「あ?嘘じゃねェよ」
「嘘。だって土方さん少し顔色悪かったんですもの」
先ほどの土方の様子を思い浮かべながら言った。
顔は真っ青で、でも私を見るとどこかほっとした様子を見せたのだ。
「何かあったんですか?」
もう一度聞く。しかし土方は目も合わさず煙草をふかし続けた。
落ち着きはらったその様子になぜだか苛つきを覚える。
さっきのあれは何だったのよ。顔真っ青で。少し心配、してるのよ。
「土方さん」
「あ?」
「何があったか言って下さいな」
「…いいだろ、何でも」
「二度と家に入れませんよ」
このセリフに効果があったかどうかわからない。しかし土方は苦い表情をした。
「…何ですか」
「あー…あれだ、総吾だ」
「沖田さん?」
全くの予想外の発言に目をパチりとさせる妙。
土方はだらだらと言葉を続けた。
「だから総吾が、朝っぱらから怪談話なんてするから…」
「……」
「見廻りしてたら思いだしちまって」
煙草ふかしながらかっこつけても、それはかっこつかない、と妙は思った。
鬼の副長が怪談話で顔真っ青になるなんて。あなた、人を青くさせる側でしょうに。可笑しい。
「…オイ」
「はい?」
「何笑ってんだ」
「あら、笑ってました?」
「…言っとくがな、総吾の話はまじで怖いぞ」
バカ真面目な顔で言う土方に、また笑いがこみあげてきた。
「それで、うちにいらしたんですか」
「…わりィか」
「いいえ」
静かに答える妙。
「……聞くか?」
「はい?」
「総吾の怪談話」
「けっこうです」
自分もその手の話は苦手だ。聞いてる時ももちろん怖いのだが、後になってふと思い出したときなんて堪らない。
ああ…土方さんもそんな感じだったのだろうか。
「…怖かったら、今度はあんたが俺のところに来ればいい」
「何言ってるんですか、張り倒しますよ」
「まあ…そうだな」
「あなたが来ればいいでしょう、ここに」
昼下がり
真っ黒い隊服の男と桃色の着物の女が二人。
隊服の男は女の綺麗な髪にキスをひとつを落とした。
半分は嘘
会いたくなったから
ほのぼのが…書きたかったのに…すいません