「誰でもいいんですか?」

不意討ちで口付けられれば恥ずかしさよりも驚きのほうが先に現れた。

しかしその問いは愚問であることをすぐに思い知る。


沖田の頬が淡く色付いている。その色に数日前久しく見かけた桃の花を思い出した。
春の色は人の気持ちを浮つかせるのかしら。定かではない、でも確かに自分の心が踊るのを感じた。桃の花、沖田からのキス。


「俺が誰にでもこんなことすると思ってんですかィ」


ぶっきらぼうに言い放つのは、拗ねているからか照れているからか。どちらにしても妙はくすくすと笑う。


「思ってませんよ」


本当はずっと待ってたわ と自分の中で呟く。
妙は横に座る沖田を見やった。


(でもそうね、それならあの言葉を聞かなくちゃ)



「ねえ沖田さん」
「…何ですかィ」
「どうしてキスしたんですか?」


妙がにっこりとそう問えば沖田の頬はさらに色づいた。
桃の花びら。あ、もうすぐ桜も咲くわ。そう気付き自然と笑みが零れる。


「何笑ってんですかィ」
「ふふ、だって嬉しいんだもの」
「…何が?」
「いろいろよ」


いろいろ。妙はまた笑うと「もうすっかり春ね」と続ける。


「何言ってんでィ。朝はまだまだ寒ィじゃねェか」
「でも今は暖かいわ」

日だまりの暖かさについほっと口元が緩む。しかし確かにびゅうと吹く風はまだ少し冷たかった。


…寒さがあって暖かさがあるものね。



「沖田さん」

もう一度問い掛ける。


「何ですかィ?」
「…覚悟ができたんですか?」


妙の問いに沖田は一時の間の後「どうでしょうねィ」と零しただけだった。その表情はさすが、妙には読み取れなかった。



「でも…姐さん」
「それはやめて下さい」
「じゃァお妙さん」
「はい」
「俺…ずっと好きでした」
「ええ、私もです」
「これからも、」
「はい」


縁側に座る二人。
微かに残る冬に知らないふりをして春の世界に心踊る、午後の一時。


「桜が咲いたらお花見でもしたいですね」
「そうですねィ」




季節の変わり目で
今はそれだけで、




080323






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