金木犀の香りがする。涼しい風に乗ってきたそれは、新たな季節の香りだった。


切り取られた箱庭



妙の隣には銀時がだらしなく座っていた。彼はどうやって季節を感じとるのだろう。素朴な疑問。ファミレスの限定メニューだったらとても、らしいかもしれない。妙は自然と頬を緩ませた。


「何笑ってんの」

「…いいえ」

「なーんか、もう秋だなァ」


ぼそりと呟いた銀時の声に、妙は少しだけ重みを感じた。自分にとっては18回目の秋、彼にとっては


「そういえば、銀さんそろそろ誕生日ですよね」

「あァ…そういやそうだな」

「新ちゃん達が何かしてくれるんじゃないんですか?お祝い」


視線を隣にやると、手は髪に、ぽりぽりと髪を掻きながら無表情にさァなと答える彼がいた。だけど妙は知っている。その面の奥に優しさがあることを。本当は嬉しいくせに。


「…なーに笑ってんだコラ」

「ふふ、いいえ」

「なんかムカつくな」

「あら、何か?」

「…いいえ」


近くで鳥の鳴き声が聞こえて、何の鳥だろうと妙は考える。意外と、銀時は知っていそうな気がしてまた考える。彼は何でも知っているように言うのだ。何でも知っているように見せて、何にも知らないように見せて、うやむやにする。そんなことをして、単純なものが見えなくなったらどうするつもり。妙は考えて、すぐに静かに微笑んだ。信念だけは真っ直ぐに持っているようなバカな人だったわね。


なァ、お妙


声は静かに空気に響いて届く。だけど触れ合った手と手は突然で、妙の心臓は一瞬止まった。

「な、んですか」

「お前は?」

「え?」

「何もくれねーの」


誕生日。おねだりにしては真剣な顔で、重ねられた銀時の手が暖かい。

「…言っておきますけど、私ももうすぐ誕生日ですから」

妙は重なる銀時の大きな手を見ながら言う。顔をあげて目が合ったらどうしようもなくなる気がした。


「銀さんこそ、何かくれるんですか」


そう言うと、男がふっと笑う気配がした。思わず顔をあげると、いつもの死んだような目と、目が合う。


「…何ですか」

「いや、何が欲しいの?」

「…どうせお金ないでしょう」

「確かに金はねェけど?」

「……」


ねェけど?の続きが聞きたいのに。妙は黙って笑う男を見上げる。
怠惰で穏やかな雰囲気に少しだけ甘美さが混じった。

鳴く鳥の音もくすぐる金木犀の香りも、愛しく時の流れを告げる。銀時はどうだろうか。交わらない過去に何を見たのか、いつかぽつりと落とす時、きっと隣で拾い上げたい。ちょっとしたエゴを抱いて、妙はゆっくりと目を閉じた。





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銀さんお妙さん誕生日おめでとう!(一緒くた!しかも超フライング)ちゃんと祝わなくてすみませ…


081005





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