出会った頃より、その存在は随分とでかくなった。そりゃそれなりの時が経ってそれなりの関わりがあればでかくなるのは必然だ、あいつらと同じように。
彼女の高い上品な声も凛とした姿も、すぐに思い浮かぶ。笑った表情も怒った表情も染み付いたように俺の中に存在している。それはあいつらも同じで、でもどこか違うのはどうしてか。
「あ、」
ガラス越しの町並みを何気なく見やると彼女、志村妙の姿が目についた。よく似合う桃色の着物、買い物帰りなのだろうか両手に荷物を持って一人歩いている。
(…大変そー)
呑気にパフェを食いながら、呑気にそんなことを思う。両手が塞がるほど買うなら荷物持ちくらい連れていけばよかったのに。例えば新八とか…
彼女の姿を目で追いながら、新八は勤務中だったなと思い直す。
きっと今は万事屋で神楽と暇を持て余しているだろう。そんな彼らを放っておいて自分はパフェタイムなのだ。
これは見つかったら確実に殺される。でもパフェは譲れない。視線も外せない。
(……あ、)
犬、発見。
視界の隅に真っ黒なふてぶてしい犬。あの犬とは出来る限り関わりたくないので今は見なかったことに。…というわけにはいかない。
そいつの目線が、じっと彼女を捕らえていることに気付いてしまった。
何でだよ、いやおかしいだろ、いやいやそれこそ何で、というかその前に、
沸き上がる感情にとりあえず蓋をして席を立つ。
ガラス越しにある世界に足を踏み入れ、急いで、でもゆっくりと彼女のそばに近づいた。
彼女の細い腕の先にぶらさがってる荷物を奪いながら「重そうだなァ」と声をかけると、彼女は驚きの表情を向け「銀さん」と俺の名前を言って歩みを止めた。
「仕事中じゃないんですか?」
「いや、まあちょうど終わったとこ」
「あら、ご苦労様です」
「…いえいえ」
ご苦労様はこちらのセリフです、と心の中で呟くと彼女の手から完全に荷物を奪った。
「なに、こんなに買ったわけ?」
案外重かったそれに驚きつつ言うと彼女は笑顔を見せた。
「つい、いろいろ買っちゃうんですよ」
「ふーん。あ、じゃあイチゴ牛乳とかもある?」
「あるわけないでしょ」
「ああ…そう」
軽く落胆しつつも視線を買い物袋から彼女の後方、真っ黒な犬の元へと向ける。
(…大串くん、ね)
明らかに睨みつけている彼とは反対に、俺は笑みを送った。
何でこんなことを。
本当は、解っている。その存在の大きさも抱く感情も、あいつらと同じで、でも彼女は違う。
「銀さん?」
その声に気づき視線を彼女に戻すと、不思議そうにことりと首を傾けている。
「何でもねェよ」
そう言いながら歩みを促すと納得してない様子を見せながらも俺の横についた。
二人、並んで歩くのはいつぶりだろう。
「…呑気にやってられねェな」
「え?」
「なァ、お妙」
これからパフェでもどうですか?
「そういやさっき半分しか食ってなかった」
「…さっきっていつだよ。仕事じゃなかったのかテメェ」
080316