飛び乗るように腹の上に着地するとグエとカエルの鳴くような声が聞こえた。次いで、ふざけんな内臓的なものが潰れたとかリバースするとか、確実に怒った声が耳に入る。


「てんめー神楽コノヤロー」


銀時の片手ががしと神楽の両頬をつかむ。せっかくいい気持ちで寝てたのに何をしやがる、と言わずとも恨めしげな目を神楽に向ける。しかし無視。退けと言う銀時の言葉も無視。


「銀ちゃん」

「あんだよ」

「お腹がかっぽりネ」

「かっぽり?」


眉を潜める銀時をよそに神楽はもう一度その言葉を繰り返した。


「…なんだそりゃ」

「銀ちゃん、昨日の夜どこ行ってたネ」

「あァ?何処でもいいだろうが」


そう言いながら銀時は神楽の頬から手を放した。つまらなそうな声にも神楽は動じない。「確かにどうでもいいアル」同じくつまらなそうな声で言いながら、その小さな手で銀時の首をそっと掴んだ。

今朝方、血の匂いを漂わせて帰ってきたのを彼女は知っていた。

たが銀時の器用さも不器用さも彼女は知っていた。責めることはしない。ずるいと思うこともできなかった。


「…なに」

「…充たされたアルか」


いつの間にかお互い、無表情に呟く。銀時の拍動を感じとった手はびくともしなかった。
ただ自分は、どうすればいいんだろう。かっぽりと空いたのはお腹じゃないかもしれない。目の前の男が愛しかった。



「神楽」
「!」



言葉と同時に神楽の重心が前に傾く。銀時が小さな身体を抱きよせた。

銀ちゃん、胸の内で呟けばより近くに彼の匂いを感じた。小さな身体の大きな温かさが、銀時にも伝わる。互いの呼吸の近さに心が緩んだ。じわりと胸に染みる。


「ぶっ」

「…何吹き出してるかマダオ」

「バカ、泣いてんじゃねェよ」

「な!泣いてなんかないアル!べべ別に嬉しくなんかないネ!」

「ほー」


首を掴んでいた小さな手はいつの間にか大きな背中へ。
じわじわとお腹の調子が戻っていくのを神楽は感じた。







(寂しさの)
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080724