銀時の突然の訪問に、思いっきり嫌な顔をする妙。


「いやいや、何で?」


わざわざというのはおかしい、けどせっかく会いにきてやったのに、その顔はないだろう。銀時は心の声をそのまま声に出す。

久しぶりではないが、何故かしばらく会ってないような気がして会いにきた、表情にも声にも出さないが顔を見にきたのだ。


「別に会いにきてなんて頼んでないんですけど」

「いや、そうですね」


志村家の玄関先で妙と向き合う銀時は、何とも言えない居心地の悪さを感じる。特別悪いことをした覚えはない。ないが、悪いことをした気分になるのはここ最近の出来事のせいだ、きっとそう。「とりあえず上がっていい?」いつもより幾分控えめな声がでた。


「いいですけど…私今から買い物行きますよ?」

「あー買い物ね」


妙の様子は普段通りで、でも自分が居心地悪いのは変わりない。むず痒い思いに自然と己の髪を掻く。


「…俺も行く」

「買い物ですか?」

「おう」

「昼寝しにきたんじゃないんですか?」

「ちげェよ」

「…何も買ってあげませんよ?」

「わーってるって」


続けて自ら荷物持ちになると伝えると妙は不思議そうに「珍しいですね」と呟いた。


二人歩く地上を照らす太陽はすっかり昇りつめ、暖かい空気が辺りを包む。銀時は居心地の悪さよりもじんわり滲む暖かさをその心に感じた。


「銀さん」


半歩後ろを歩く妙からの透き通るような呼び声。綺麗で強くてしなやかで、その声がすぐそばで聞こえた、ただそのことに無性にほっとした。


「…なに?」


銀時がワンテンポ遅れて返すと妙が足を止めた。それに気付いて銀時も足を止め後ろを振り返る。だらしなく向けられた目線はいつものだるそうな目で、しかし微かに確かに愛しさも含まれていることを妙は知っている。
その目線に妙は一度ため息をつき「何でもないわ、ごめんなさい」
そう言いながら銀時を追い越した。


「え、何それ」


追い越された銀時は戸惑いつつも妙の後ろ姿に足を動かす。今度は妙が半歩先に歩くという形になった。








***


「マジで何も買ってくんねーんだな」

「当たり前でしょ」


大江戸マート、レジを済ませた妙は食料を袋に入れながら銀時を適当にあしらっている。
店の中を二人で回っている間も食料を選んでる妙の横でチョコ、イチゴ牛乳、和菓子、団子と何か甘いもんちょっとだけと言い続けたにも関わらず貰えたのは妙からの重い一発だった。


「何にも買ってあげないって言ったでしょ」

「そうだけどよ、見たら食いたくなるじゃん」

「だから貴方はダメ人間なんですよ」

「おま、ダメ人間ってなんだよ。銀さんかっこいい時もあるじゃん」

「そこがだめなんですよ」

「そこがだめってオメー、銀さんのかっこよさ全否定か」

「銀さんバカでしょ」

「オィィ!何その軽い言い方!あーやべ、傷ついたかも。俺のガラスのハートが…」

「はいはい」


グチグチ言う銀時を妙は適当に流して「ハイ」と詰めおわった二つの袋うち一つを渡す。


「んだよちくしょー」

「あ?」

「イエ何も」


右手に袋を持ったまま両手をあげる。なんたって暴力反対。


「それじゃ行きましょ」

「え、そっちは?」


銀時は言いながら妙の手にぶら下がる袋を一つ指差す。
いつもだったらどんなに多くてもすべて持たされるというのに。今日はまだ片手があいている。


「…だからバカだって言ったんです」


さも呆れたように言う妙に銀時はハテナを顔に描く。

そんな銀時に構わず妙は店を出た。ウィーンという音と共に眩しい光が二人を照らす。


「オイ、俺が持つって」

「今日は私が持ちます」

「何でだよ」


珍しく率先して持つと言う銀時の言葉を妙は適当にあしらう。


「おーい、お姉さーん?」

「何ですか」

「何ですかじゃねェよ。何、お前どうしたの?」


いつもだったら、ちぎらせるほど持たせるじゃん。耳にまでかけようとするじゃん。銀時は至極真面目な顔で言う。


「銀さんこそどうしたんですか。いつもだったら、すぐ逃げようとするじゃない。今日は自分からついてきちゃって」

「それはお前あれだよあれ」

「あれじゃ分かりませんけど」


頑なに断る妙に、初めの不機嫌そうな顔を思い出した。え、やっぱ何か怒ってる?


「…お妙?」

「何ですか?」


いや、何ですかじゃなくて。空いてる左手で髪を掻くと、妙はクスと笑う。笑った後しょうがないですねとため息を吐いた。


「そんなに持ちたいんですか」

「…まあ、たまには」


そうじゃなくて、ただいつものように持てと脅されからかい殴られ、そんなふうにしたいだけ、いつものように。やっぱり今日の妙は少しおかしいと銀時は思う。


「変な銀さん」


いやいやそれはこっちのセリフ。言おうとして息が詰まった。左手に柔らかい、暖かい感触。


「…え、」

「持ちたいんでしょ?」


笑いながら言う妙は、自らの右手を銀時に持たせる。


「いやいやいやいや」

「いや?」

「…いやいやいや」

「…銀さん」


笑っていたはずの妙から笑顔が消えているのに銀時は気付いた。手の温もりが強くなる。


「どうしたの、お前。やっぱ熱でもあるんじゃ…」

「熱があるのは銀さんのほうです」

「は?」

「ほんとバカね」


呟くように言う妙をじっと見つめる。妙の目線は銀時の左腕で「…また怪我して」小さな声が言葉を紡いだ。

ああそうか、もしかして、全部知っているのか、お前。


「熱あるのはお互い様だろ」


銀時は繋ぐ手を強める。その強さに妙は顔を上げると、ふわり、笑う銀時がいた。


ごめん ありがとう 心配かけた

どの単語も出てこない、ただ温かさに頬が緩む。まだ怪我の癒えぬ左腕には買い物袋じゃなくて、それよりも重たい妙の手が。しかしそれが銀時には嬉しかった。守りたいものがここにあった。


「お妙」

「何ですか?」

「好き。…とか言っちゃったりして」

「バカですね」


わかってます と彼女は静かに笑った。






手のひらから伝わる
(強がりの優しさ)







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動乱編のその後、だったりそうじゃなかったり(どっち)





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