更新履歴・日記



ようこそサンドボックスの大地へ-兄さん編2
萌え 2024/01/05 00:52


・景光さんと麻衣兄同居シリーズ
・麻衣兄さん視点
・何の脈絡もなくマイクラ世界
・親友の名前は***





 そんなわけで俺は草むしりを始めた。幸いにもこちらは素手ですぐに毟ることができた。……いや草むしりを馬鹿にしないでいただきたい。唯さんにも伝えたが、その辺に生えている雑草を毟ると植物の種がドロップするのだ。それを植えて農業することができる。つまり長期的な食糧確保のために役立つ立派な行為である。延々と毟っていると、そこそこ植物の種が集まって来た。たまに種どころか大麦やジャガイモ、にんじんまで出てきたところで思わず手を止める。

(……大麦って作物、マイクラにあったっけ?)

 あとジャガイモとかニンジンって案外入手が面倒臭かった気がする。少なくとも、その辺の草から飛び出す類ではなかったような。俺はインベントリを眺めながら首を傾げた。

 そういえばインベントリは使えた。インベントリとは操作キャラ自身が持ち歩いているアイテム画面のことだが、ゲームではすぐに持ち替えが出来るアイテム(ホットバー)が9マス分(物によるが斧などの道具以外は1マス64個収納できる)、それ以外に収納できるのが27マス分ある。後者は鞄に入れているイメージなので、取り出すためにインベントリ画面を呼び出す必要がある。しかし普通の人間が持ち得る量を遥かに凌ぐのは間違いない。俺は手ぶらで草むしりをしていたのだが、手にした傍から種や野菜がポンポン消えるので、ゲーム通りのインベントリ画面を思い浮かべてみたら何とかなった。

 なお、唯さんは切った傍から現れては消える原木ブロックに恐怖していたが、気づいた俺が伝えてからインベントリ画面を頑張って(イメージし慣れていないので頑張る必要があった)開いた後は諦めの顔になっていた。現実に使えたら何でも隠し放題とかボソッと呟いていたが、多分唯さんは疲れているので俺は聞かなかったことにした。恐らく、エロ本の方がマシと思える物騒な何かを隠そうとしているのでは……いや考えない考えない。

 草むしりをしている最中に気付いたのだが、あちこちに生えている雑草や花々に紛れて、あまり見慣れない花も咲いていた。全体的なシルエットは菊に似ているが、花びらの形は開いたチューリップのようにも見えるし、色はピンクや青、黄色とかなりカラフルな色が一つに混じり合っている。試しに一本抜いて調べてみると“クリスタルの花”と表示された。

(……バニラにあったっけ???)

 俺があまり興味を示さなかった花畑バイオームとかに生えていたりしたのだろうか。この場所は恐らく温暖で過ごしやすい平原バイオームなので、花畑バイオームと隣接していても不思議ではないが、花畑というほど密集して生えている場所はない。じっと見ていると見覚えがあるような気がしないでもないが、見ていても仕方がないので考えるのをやめた。どの道、花は食えない。

「麻衣ちゃんどうしよう」

「どうしました?」

「4mくらい上に浮かんでる木を切れる」

「そういうルールです」

「オレ、超能力でも使えるようになったの?」

 PSI(超能力)が使えるようになったのは唯さんではなくリドルである。

「ゲームだと確か、4マスか5マスくらい先のブロックを切ったり掘ったりできます」

「……すごいなー」

 そんな会話もあったが、特にトラブルもなく木を切り石を掘り草を毟る。単純作業中は考え事をするのに最適なので、俺は今後の流れをどうするか考えていた。

(基本的なアイテムとか俺の好きなアイテムなら材料も並べ方も覚えてるけど、それ以外はちょっと怪しいな)

 先ほどのクラフト画面は、完全にセルフでやれスタイルだった。俺はマイクラで遊んでいた時期があるとは言え、少々ブランクがある。しかも気になるアイテムのレシピはいつでも調べられる環境にあったため、しょっちゅう作るアイテムか材料集めに奔走したアイテム以外はそれほど詳しくは覚えていない。完全な記憶頼みとなると、生活の基盤を整えるまでの効率がかなり落ちる。きっと存在すら忘れてしまっているアイテムもあるだろう。それにこの世界のバージョンによっては、超基本的なレシピ以外は俺の知識が通用しない可能性もある。マイクラは何度もバージョンアップを繰り返し、様々な要素が追加され続けることも魅力的なゲームなのだ。

(ゲームならレシピ検索があったんだけどな)

 クラフト画面では作りたいアイテムを選ぶことで、材料さえ持っていれば自動でマス目にアイテムを並べてくれる機能があった。自動配列機能まで高望みはしないが、せめてレシピブックがあればなと思わざるを得ない。そういえば俺は、別の異世界で何もない場所から散々本を出しまくっていたことがあった。あんな感じでレシピブックが出せないだろうか――と両手をわきわきさせていたら出た。

「……えっ」

「えっ?」

 俺につられて振り向いた唯さんも似たような声を上げる。そう、出たのだ。俺の手の中に、雑誌サイズのレシピブックが。表紙ではみんな知ってるスティーブ(デフォルトプレイヤーキャラ)がポーズを決めている。とりあえず開いてみると、有難いことにマイクラのアイテムのレシピが乗っていた。作業台からパワードレールなどまで色々とあり、うっかりレッドストーン回路系のページを熟読しそうになったので努力して視線を引き剥がした。

(チートだ! 俺の時代が来たぞ!!)

「麻衣ちゃん、その本はどこで?」

「なんか出せました」

「なんか」

 困惑していた唯さんの表情がすっと真顔になる。ついでに彼にも試してもらったが、俺のようにレシピブックは出せなかった。やっぱり俺のチート能力ではないかありがとうマイクラ。かつてマイクラで環境破壊に励んだ甲斐があったというものだ。でもどうせならこういうところに来たくなかった。環境破壊し過ぎたせいか?

「これ、マイクラで作れるアイテムのレシピです。これを見れば色んなアイテムが作れますよ」

「へえ……便利だなぁ。オレにも見せてもらっていいか?」

「もちろん、ど、あれ?」

 俺はA4サイズのレシピブックを唯さんに手渡そうとしたのだが、俺の手から離れた瞬間にそれは消えてしまった。だが出そうと思えばすぐに俺の手元に出せる。しかし渡せない。どうやら俺以外の人間に持たせることはできないようだ。唯さんは少しだけ目を瞬かせたが、最早本が出たり入ったりじゃなかった消える程度で驚きもしないのか、俺の隣に立つと背中を丸めた。この人はリンさんほどではないが***よりは背が高いので、見上げているとたまに首が痛くなる。元の姿の俺ならそんな些細な悩みなどなかったのだが。

「ちょっと読みにくいけど、読めないわけじゃないな」

 唯さんはレシピブックを覗き込みながらページを捲った。俺が持っている状態のレシピブックに触ることはできるらしい。

「随分料理の幅が広いんだな。作ったことがない料理も結構ある」

「そう……ですね?」

 唯さんは純粋に驚きの声を上げたが、俺は首を傾げた。いささか料理の幅が広すぎる気がする。俺はマイクラ料理勢ではなかったので詳しくはないが、バニラの状態でここまでたくさんのレシピはなかったと思う。野菜サラダなんてオシャレな料理を作れただろうか? それとも、肉を焼いたりパンを焼くだけの俺が知らないだけだろうか。

 そんな俺の内心など知らない唯さんは、少し楽しそうな顔をした。料理が得意だからだろうか。せっかく同居しているので俺はたまに唯さんから料理を教えてもらっているのだが、彼の領域に到達するのはまだ途方もなく先の話だろう。

「すごいな、求肥(ぎゅうひ)も作れるのか」

(……いやこれ絶対MODだろ!? こんな日本人しか知らないマイナーレシピがバニラなワケあるかァ!!)

 バニラなわけがない。明らかにMOD(追加要素)だ。つまりこの世界は見た目こそバニラだが、それ以外に何らかのMOD要素が含まれている危険な世界ということになる。

 MODというのは“modification(改造)”の略語だ。それをゲームに適用すると、一部の仕様を変更することができる。例えばこういった料理のクラフトレシピを追加したりすることもそれに含まれている。他にもブロックの見た目を変更したり、様々なキャラクターやバイオームを追加したり、本当にいろいろなルール変更ができてしまう。それがまたマイクラの魅力だが、目の前にリアルでお出しされるとほとほと困ってしまう。勝手に追加された謎ルールを手探りで推測して対応するのは、いくら何でも難易度が高くないだろうか。

「……麻衣ちゃん? どうしたんだ、難しい顔をして」

「いえ。もしかするとこの場所、自分の知っているマイクラではないかもしれません」

 マイクラ初心者の唯さんをいたずらに不安にさせたくないが、基本的にハイスペックな彼には黙っている方がデメリットが大きい。推測の時点でも情報は共有した方が良いだろう。俺は唯さんにMODの推測を伝えた。唯さんはすぐに俺の懸念を理解すると、眉をひそめた。唯さんにとってはただでさえ理解しがたいマイクラ世界がより一層分かりにくくなっているのだから、当然の反応だろう。

「唯さんにだけ作業させて申し訳ないんですけど、しばらくレシピブックを読んでいいですか? ここから何か分かることがあるかもしれません」

「そうだね。そっちは麻衣ちゃんに任せるよ」

 唯さんも思うところがあったのか、あっさりとお許しが出た。いや、単純にあまり戦力にならなそうな俺のなけなしの体力を削りたくなかっただけかもしれない。どちらにせよ、俺は俺の出来ることをするだけであるし、唯さんにも木こりをやってもらうだけである。原木はいくらあっても困らない。余裕が出てきたら植林の仕方も唯さんに教えよう。

 レシピブックとはある意味ネタバレの宝庫である。というのも、クラフトの材料を見ればある程度何が存在しているのか想像がつくからだ。例えばタイルや石垣もクラフトできるが、それが使われる建造物が自動生成されていると推測も出来る(そもそもMODはきちんと調べた上で好みに合わせて導入するものだが)。そして軽くではあるが全てのページに目を通したところ、俺の記憶に誤りがなければ、バニラのレシピに追加されていたのは料理や作物、調理器具や家電といったやたらと偏りのある要素だけだった。サンドウィッチだけでレシピが10種類以上あるってどういうことだ。

(仮にこの追加MODで新規生成されるMOBがいるとしても、多分危険な敵対MOBとかはないよな。精々肉の素材が増えるくらいで)

 この謎のMOD作成者は、料理にかなり拘りがあると思われる。バッター液って何だよ。バッタの煮汁か? 暇なときに唯さんに聞いてみよう。

 それにしても恐らく、レシピブックと力の差以外は俺と唯さんでスペック差はなさそうだ。いやまあ、その力の差がでかすぎて俺に支障が出てるんですがね。レシピブック機能でつり合いが取れている、のか? そう思うことにしよう。もしかしたらゲーム的に体力ゲージや満腹ゲージが違うかもしれないが(もちろん俺の方が不利という方向で)、現時点では分かりようもない。だがあまり自分に期待しないようにしておこう。



prev | next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -